刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(3)~「『わいせつ』の意義」を説明

 前回の記事の続きです。

「わいせつ」の意義

1⃣ わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の客体は、

  • わいせつな文書、図画(とが)、電磁的記録に係る記録媒体、その他のもの(1項前段・2項)
  • 電磁的記録、その他の記録(1項後段・2項。ただし、2項は「電磁的記録」のみ)

です。

 「わいせつ」の意義は、その対象が「物」である場合と「文書」の場合とでは異なります。

 理由は、「文書」の場合は性欲を刺激又は興奮させることはあっても性欲を満足させることはあり得ませんが、「物」の場合は性欲を満足させる物品で、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものがあるためです。

2⃣ 「物」の場合についての「わいせつ」の意義に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正7年6月10日)

 女性の陰部の模造物につき、わいせつ物に該当しないとして無罪を言い渡した原判決を支持した判決です。

 裁判所は、

  • 性欲を刺激興奮し又は之を満足せしむべき文書、図画、その他一切の物品を指称し、従ってわいせつたるには人をして差恥厭悪感念を生ぜしむるものなるを要す

と判示しました。

最高裁決定(昭和34年10月29日)

 ゴム製品及びスポンジゴム等を材料とした男性又は女性の模造性器のわいせつ性が争点となった事案です。

 裁判所は、

  • 刑法第175条にいう「わいせつの物」とは、性欲を刺激し、もしくは興奮させ、またはこれを満足せしむべき物品であって、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう

と判示しました。

3⃣ 「文書」の場合についての「わいせつ」の意義に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和26年5月10日)最高裁判決(昭和27年4月1日)

 わいせつ文書について、裁判所は、

  • 刑法第175条にいわゆる「わいせつ」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう

と判示しました。

最高裁判決(昭和32年3月13日)

 裁判所は、

  • 刑法第175条にいわゆる「わいせつ文書」とは、その内容がいたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する文書をいう

と判示しました。

 上記「普通人」の意味について、最高裁判決(昭和45年4月7日)は、

  • 英文の書籍のわいせつ性は、その読者たりうる英語の読める、日本人および在日外国人の普通人、平均人を基準として判断すべきである

と判示し、普通人とは平均人の意味である旨を示しました。

次の記事へ

わいせつ物頒布等の罪の記事一覧