刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(6)~「わいせつ性と芸術性・科学性との関係(わいせつ性と芸術性は両立し得る)」を説明

 前回の記事の続きです。

わいせつ性と芸術性との関係(わいせつ性と芸術性は両立し得る)

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)における「わいせつ性」と「芸術性」との関係を説明します。

 「わいせつ性」と「芸術性」は異なる概念であり、両立し得ます。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和32年3月13日)

 裁判所は、

  • 芸術性とわいせつ性とは別異の次元に属する概念であり、両立し得ないものではない
  • 芸術的面においてすぐれた作品であっても、これと次元を異にする道徳的、法的面においてわいせつ性をもっているものと評価されることは不可能ではないからである
  • ほぼ同様のことは性に関する科学書や教育書に関しても認められ得る
  • しかし芸術的作品は客観的、冷静に記述されている科学書とことなって、感覚や感情に訴えることが強いから、それが芸術的であることによってわいせつ性が解消しないのみか、かえってこれにもとずく刺戟や興奮の程度を強めることがないとはいえない

と判示しました。

 この判決は、

芸術性・思想性とわいせつ性とは、その属する次元を別にする概念であって、芸術的・思想的価値のある作品であってもわいせつ性を有すると評価されることがあり得ること

を明らかにした点が要点となっています。

 その後、最高裁決定(昭和44年10月15日)においても、上記判決をを踏襲し、

  • もとより、文書が持つ芸術性・思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少・緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下にわいせつ性を解消させる場合があることは考えられるが、右のような程度にわいせつ性が解消されないかぎり、芸術的・思想的価値のある文書であっても、わいせつの文書としての取扱いを免れることはできない
  • 刑法175条は、文書などをわいせつ性の面から規制しようとするもので、その芸術的・思想的価値自体を問題にするものではない
  • 裁判所は、右法条の趣旨とするところにしたがって、文書のわいせつ性の有無を判断する職責をもつが、その芸術的・思想的価値の有無それ自体を判断する職責をもつものではない
  • 芸術的・思想的価値のある文書でも、わいせつの文書として処罰の対象とされることになり、間接的にではあるが芸術や思想の発展が抑制されることになるので、わいせつ性の有無の判断にあたっては慎重な配慮がなされなければならない

と判示しました。

 この判決は、芸術性とわいせつ性とは異なる概念であり、両立し得ることを再確認した判決と評価されています。

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