前回の記事の続きです。
刑法176条3項の不同意わいせつ罪の説明
刑法176条3項の不同意わいせつ罪について説明します。
刑法176条3項は、
16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする
と規定します。
3項は、16歳未満の者については、「性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力」が十分備わっているとはいえないことから、
16歳未満の者に対してわいせつな行為を行えば、そのことをもって不同意わいせつ罪が成立するとしたもの
です。
「性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力」とは?
「性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力」とは、
- 性的な意味を認識する能力
- わいせつ行為の相手方(犯人)との関係において、そのわいせつ行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力
の2つが備わっていることが必要であるとされます。
そして、16歳未満の者は、上記①②の能力が十分に備わっていないとされることから、16歳未満の者に対してわいせつな行為を行えば、そのこと自体で刑法176条3項の不同意わいせつ罪が成立するものです。
主体(犯人)
刑法176条3項は、
『16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)』
とし、犯人(主体)に限定条件を付けています。
具体的には、刑法176条3項の不同意わいせつ罪の主体(犯人)は、
被害者の年齢が13歳以上16歳未満である場合には、犯人の年齢がその被害者が生まれた日から5年以上前の日に生まれた年齢である場合に限り処罰する
という限定になります。
主体(犯人)にこのような限定があるのは、
13歳以上16歳未満の被害者については、「性的な意味を認識する能力」が一律に欠けるわけではないものの、「わいせつ行為の相手方との関係において、そのわいせつ行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力」が十分でなく、犯人との関係が対等でなければ、有効に自由な意思決定ができる前提となる能力に欠ける
と考えられ、その上、
犯人と被害者の間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的行為についての自由な意思決定の前提となる対等な関係は存在しないといえる
とされるためです。
被害者が13歳未満の場合には主体(犯人)に制限はない
被害者が13歳未満の場合には、主体(犯人)に上記のような限定はなく、13歳未満の被害者にわいせつな行為をすれば、犯人の年齢が被害者と近かろうと、不同意わいせつ罪が成立します。
これは、
13歳未満の被害者については、「性的な意味を認識する能力」が備わっておらず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力が一律に欠ける
と考えられているためです。
「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る」とは?
刑法176条3項の条文中にある「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは、
13歳以上16歳未満の者の生年月日の前日から起算して5年以上前の日に生まれた者
をいいます。
なお、13歳以上16歳未満の被害者において、犯人が「その者(被害者)が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」であることを認識していることは必要ないとされています。
刑法176条3項の不同意わいせつ罪の故意
不同意わいせつ罪は故意犯です。
前々回の記事で、不同意わいせつ罪の故意が認められるためには、
- 性的意図
- 「刑法176条1項1号~8号に掲げる行為・事由その他これらに類する行為・事由」があることの認識
- 「刑法176条1項1号~8号に掲げる行為・事由その他これらに類する行為・事由」により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になり、又はその状態にあることの認識
- 被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の下で、又はその状態を利用して、わいせつな行為をすること
の認識
の4つをいずれも認識している必要があることを説明しました。
これに加え、刑法176条3項の不同意わいせつ罪については、
- 被害者が16歳未満の者であることの認識
- 被害者が13歳以上の者である場合には、自らが被害者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることの認識
- わいせつな行為をすることの認識
のいずれも認識も持っている必要があります。
「その者(被害者)が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」ことの認識について、犯人の故意が認められるためには、13歳以上16歳未満の被害者の生年月日を具体的に認識している必要はないとされます。
これは、
犯人においては、自身の満年齢を認識しているのが通常であることから、「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」との要件を客観的に満たす場合、13歳以上16歳未満の者の年齢を認識していれば、通常、少なくとも、「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」であることの未必の故意が認められる
と考えられるためです。
身分犯の共犯(共同正犯)
刑法176条3項の不同意わいせつ罪は、条文において、主体(犯人)を「13歳以上16歳未満の者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」に限っている真正身分犯です。
そのため、身分のない犯人(「5年以上前の日に生まれた者」でない者)が、身分のある犯人(「5年以上前の日に生まれた者」)に加功した場合、刑法65条1項の身分犯の共犯の規定の適用により、身分のない犯人にも刑法176条3項の不同意わいせつ罪の共犯(共同正犯)が成立し得ます。
身分犯と身分のない犯人による教唆犯と幇助犯
身分のある犯人(「5年以上前の日に生まれた者」)が、身分のない犯人(「5年以上前の日に生まれた者」でない者)に対し、13歳以上16歳未満の被害者に対してわいせつな行為をすることを教唆又は幇助した場合は、身分のない犯人(「5年以上前の日に生まれた者」でない者)のわいせつ行為では、刑法176条3項の構成要件を満たさないため、教唆又は幇助者である身分のある犯人(「5年以上前の日に生まれた者」)を不同意わいせつ罪の教唆犯又は幇助犯として処罰することはできないと考えられています。