刑法(16歳未満の者に対する面会要求等の罪)

16歳未満の者に対する面会要求等の罪(1)~「保護法益」「主体(犯人」「客体(被害者)」を説明

 これから4回にわたり、16歳未満の者に対する面会要求等の罪(刑法182条)を説明します。

16歳未満の者に対する面会要求等の罪とは?

 16歳未満の者に対する面会要求等の罪は、刑法182条において、

1項 わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する

1号 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること

2号 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること

3号 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること

2項 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該16歳未満の者と面会をした者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する

3項 16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第2号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する

1号 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること

2号 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること

と規定されます。

罪名

 1項の罪名は「16歳未満の者に対する面会要求罪」となります。

 2項の罪名は「16歳未満の者に対する面会罪」となります。

 3項の罪名は「16歳未満の者に対する映像送信要求罪」となります。

立法趣旨

 16歳未満の者に対する面会要求等の罪は、令和5年7月13日に施行された新しい法律です。

 本罪は、16歳未満の子供が性被害に遭うことを未然に防止するため、わいせつ目的での面会を要求したり、児童に対してわいせつな写真や動画を送信することを要求する行為を処罰するものです。

 本罪は、対面した状態で行われる性犯罪を未然に防止することを目的とします。

条文の構成

 1項は、わいせつ目的で、16歳未満の子供に対し、以下①~③のいずれかの手段を使って会うことを要求する行為を処罰します。

  1. 脅迫、偽計、誘惑を使っての面会要求(例えば、脅す、うそをつく、甘い言葉で誘う)
  2. 拒まれたのに反復しての面会要求(例えば、SNSでしつこく誘う)
  3. 利益供与することや、利益を供与することの申し込みや約束をしての面会要求(例えば、お金をあげるから会ってほしいと言って会う約束をする)

 2項は、1項の面会要求の結果、実際にわいせつ目的で面会した行為を処罰します。

 3項は、16歳未満の子供に対し、性交等する姿、性的な部位を露出した姿などの写真や動画を撮影して送るよう要求する行為を処罰します。

保護法益

 本罪は、「16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態」を保護法益とします。

主体(犯人)

 本罪の主体(犯人)はだれでもなり得ます。

 ただし、犯人の年齢について、刑法182条1項カッコ書きで、

(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)

という限定条件が付されています。

 具体的には、

被害者の年齢が13歳以上16歳未満である場合には、犯人の年齢がその被害者が生まれた日から5年以上前の日に生まれた年齢である場合に限り処罰する

という限定条件になります。

 主体(犯人)にこのような限定条件があるのは、

13歳以上16歳未満の被害者については、「性的な意味を認識する能力」が一律に欠けるわけではないものの、「わいせつ行為の相手方との関係において、そのわいせつ行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力」が十分でなく、犯人との関係が対等でなければ、有効に自由な意思決定ができる前提となる能力に欠ける

と考えられ、その上、

犯人と被害者の間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的行為についての自由な意思決定の前提となる対等な関係は存在しないといえる

とされるためです。

被害者が13歳未満の場合には主体(犯人)に制限はない

 被害者が13歳未満の場合には、主体(犯人)に上記のような限定条件はなく、13歳未満の被害者にわいせつ目的で面会要求等を行えば本罪が成立します。

 これは、

13歳未満の被害者については、「性的な意味を認識する能力」が備わっておらず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力が一律に欠ける

と考えられているためです。

「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る」とは?

 刑法182条の条文中にある「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは、

13歳以上16歳未満の者の生年月日の前日から起算して5年以上前の日に生まれた者

をいいます。

 なお、13歳以上16歳未満の被害者において、犯人が「その者(被害者)が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」であることを認識していることは必要ないとされています。

客体(被害者)

 本罪の客体(被害者)は、「16歳未満の者」です。

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