刑法(賭博罪)

賭博罪(1)~「賭博及び宝くじに関する罪(刑法23章)の罪質・処罰理由・保護法益」を説明

 これから23回にわたり、賭博罪(刑法185条)を説明します。

賭博及び宝くじに関する罪(刑法23章)の罪質・処罰理由・保護法益

 刑法23章は、

  1. 賭博罪(刑法185条
  2. 常習賭博罪(刑法186条1項
  3. 賭場開張図利罪(刑法186条2項
  4. 博徒結合図利(刑法186条2項
  5. 富くじ発売罪(刑法187条1項
  6. 富くじ取次罪(刑法187条2項
  7. 富くじ授受罪(刑法187条3 項

の7種類の犯罪類型について規定しており、刑法185条から187条の3か条で構成されています。

 これらの罪は、いずれも偶然の事情をたのんで財物の得喪を図る射倖的犯罪であるという点で共通性を有しており、広い意味での賭博関係犯罪として、同質の犯罪であると理解されています。

本章の罪の罪質・処罰理由・保護法益

 本章の罪の罪質は、

  • 労働による財産の取得という経済社会における道徳律、あるいは、国民一般の健全な経済観念・勤労観念を保護法益とする風俗犯罪である

とする見解が通説です。

 通説ではありませが、本章の罪質について、

  • 自己又は他人の財産を危殆化する犯罪であり、財産犯の一種であるとする見解
  • 通説によっては地方公共団体が適法に賭博場を開催していること等を説明できないと指摘した上、私的な賭博が禁止されているのは、詐欺賭博が行われたり、収益が暴力団の資金源とされたり、脱税が行われたりする危険性が大きいことにあるとして、賭博罪の保護法益を、賭博に関連する公正な社会秩序と理解する見解

もあります。

判例の見解

 本罪の罪質に関し、判例は風俗犯罪であるとします。

大審院判決(大正11年7月4日)

 裁判所は、

  • 偶然の輸贏(勝敗)に関し、財物を賭し、賭博又は賭事をなすことを禁ずるは、畢竟偶然の事情により財物の得喪を許すときは人をして真摯業を営むことを嫌忌せしむるに至るが故…

と判示しました。

東京高裁判決(昭和25年5月1日)

 裁判所は、

  • 賭博行為は他人との間に偶然の輸贏(勝敗)に関し財物の得喪を目的とする行為であるからこれを一般大衆の恣意に放任するときは一般国民をして射倖心ないし遊惰性を醸成若しくは助長せしめるおそれがあるので、いわゆる善良の風俗に反する

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年11月22日)

 裁判所は、

  • 賭博行為は、一面互に自己の財物を自己の好むところに投ずるだけであって、他人の財産権をその意に反して侵害するものではなく、従って、一見各人に任された自由行為に属し罪悪と称するに足りないようにも見えるが、しかし、他面勤労その他正当な原因によるのでなく、単なる偶然の事情により財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(憲法第27条1項参照)を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらあるのである
  • これわが国においては一時の娯楽に供する物を賭した場合のほか単なる賭博でもこれを犯罪としその他常習賭博、賭場開張等又は富籤に関する行為を罰するゆえんであって、これらの行為は畢竟公益に関する犯罪中の風俗を害する罪であり(日刑法第2篇第6章参照)、新憲法にいわゆる公共の福祉に反するものといわなければならない
  • ことに賭場開張図利罪は自ら財物を喪失する危険を負担することなく、専ら他人の行う賭博を開催して利を図るものであるから、単純賭博を罰しない外国の立法例においてもこれを禁止するのを普通とする
  • されば、賭博等に関する行為の本質を反倫理性反社会性を有するものでないとする所論は、偏に私益に関する個人的な財産上の法益のみを観察する見解であって採ることができない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和40年4月6日)

 裁判所は、

  • 賭博ないし賭場開張図利の所為は、これを一般大衆の恣意に放任するにおいては、一般国民の射倖心ないしは遊惰を醸成若しくは助長することからこれを禁止すべきもの

と判示しました。

東京高裁判決(昭和60年8月29日)

 裁判所は、

  • 国民一般の健全な経済観念を保護することが賭博罪の規定の趣旨であり、賭博罪が自己又は他人の財産を危険に陥れるという財産犯的側面をも有するとしても、それはあくまでも従的、副次的なものであって、その本質は公共的犯罪であり、個人を保護することを主眼とする趣旨のものではない

と判示しました。

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