刑法(賭博罪)

賭博罪(11)~「金銭そのものの得喪を争う場合は、その金額の多少にかかわらず、刑法185条ただし書の『一時の娯楽に供する物』に該当しない」を説明

 前回の記事の続きです。

金銭そのものの得喪を争う場合は、その金額の多少にかかわらず、刑法185条ただし書の「一時の娯楽に供する物」に該当しない

 賭博罪は、刑法185条において、

賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物けたにとどまるときは、この限りでない

と規定されます。

 「一時の娯楽に供する物」とは、食料品などの一時的に消費される物(食べ物・飲み物・煙草など)をいいます。

 刑法185条のただし書は、賭博行為でも、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにとどまるときは、賭博罪は成立しないことを規定します。

 金銭そのものの得喪を争う場合は、その金額の多少にかかわらず、一時の娯楽に供する物ではないとするのが判例・通説です。

 つまり、金銭そのものの得喪を争う賭博行為を行った場合は、その金額の多少にかかわらず、刑法185条のただし書の適用はなく、賭博罪が成立することとなります。

 この点に関する判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正11年11月21日)

 裁判所は、

  • その金銭は、ひとたび勝者の所得となりたる以上は、もはや他より何らの拘束牽制を受くることなく自由にその意思により処分するを得るものにして、その用途は必ずしも一時の娯楽に供する物の購買の目的に限らるるものにあらず

と判示しました。

大審院判決(大正13年2月9日)

 裁判所は、

  • 金銭その物は経済上取引の目的として使用せられ、その性質上これを一時の娯楽に供せらるる物というべからず
  • 金銭を得喪の目的とする賭事又は博戯において勝者が金銭を取得したる以上、これを費消すると否とは、その者の自由処分に属し、他より拘束を受くることなきをもってその金銭はこれを称して一時の娯楽に供せらるる物というべからざるやもちろんなりとす
  • 従って賭したる金銭の多少は、賭博犯の成立に消長なく

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年10月7日)

 裁判官は、

  • 本件賭博は仮に所論のするような賭金の少額なこと等の事情があるとしても、骨牌を使用し、偶然のゆえい(勝敗)に関し金銭の得喪を争ったものであることは、判文上明らかなところであって、単に一時の娯楽のためにしたもので罪となるべきものでないとはいえない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和26年6月23日)

 裁判所は、

  • 被告人がAほか数名と原判示日時場所において1回10円ないし20円を賭し、花札を使用し、俗に八十八の馬鹿と称する賭博をした事実を認めるに足り、(中略)1回の賭金が10円ないし20円であり、また所論のように賭者の所持金の合計が110円であったとしても、金銭はその性質上刑法第185条但書にいわゆる一時の娯楽に供する物でないのみならず、貨幣価値の変動を考慮しても、10円ないし20円の賭金が所論のように犯罪とするに足らない賭金であると解すべきものではないから、被告人のなした右賭博が一時の娯楽に供する物を賭したものとして全然罪とならないものということはできない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和32年1月17日)

 裁判所は、

  • 所論は被告人方に集まる客は一時の娯楽として来たに過ぎないこと他のパチンコ営業等と同様であると主張する
  • しかし本件では現金と同一視すべきチケットを勝敗の結果に賭けていることを先に説明したとおりである
  • 而して金銭は経済上価値の尺度たる機能を有し、他の一切の商品と等価的に交換できるものであるから、その性質上一時の娯楽に供せられるものとはいえない
  • 金銭と同一視すべき本件チケットもまた同様である

と判示しました。

一時の娯楽に供する物の対価としての金銭を賭けた場合

 一時の娯楽に供する物の対価としての金銭を賭けた場合は、刑法第185条ただし書の適用があるかについて、判例の主流は、金銭が賭けられた以上はそれが一時の娯楽に供する物の対価に充てることとされている場合であっても、刑法第185条ただし書の適用はないとします。

大審院判決(昭和4年2月12日)

 裁判所は、

  • その勝ち得たる金銭を後共同の娯楽に使用することの約束存したりとするも、これらの事由は賭博罪の成立を阻却するものに非ず

と判示しました。

大審院判決(昭和5年11月4日)

 裁判所は、

  • 勝者の所得をもって競馬見物費用の一部に充つる約定の有無にかかわらず、その賭金をもって一時の娯楽に供する物を賭したるものというべからず

と判示しました。

大審院判決(昭和6年5月2日)

 裁判所は、

  • 本件犯行をもって共同飲食費を支弁するがためなりとするも、結局勝者の負担を敗者において支弁するに帰し、二者の関係においては敗者の支弁する金員をもって得喪の目的となしたるものというべきにより、当事者間における所論約旨の存在は未だもって被告人をして賭博罪の責任を負担せしめざるの理由となるに足らず

と判示しました。

大審院判決(昭和8年11月29日)

 裁判所は、

  • 苟も金銭を賭して博奕を為したる以上、たとえこれによりて得たる金銭をもって菓子を買う約束ありたるとするも賭博罪の成立を妨げざれば

と判示しました。

大審院判決(昭和18年1月27日)

 裁判所は、

  • 1回の勝負ごとに金5円を賭し、しかも各自数回反覆してこれが得喪を争う如きは、その動機が所論の如く(中略)飲食代金支弁に出たりとするも、これをもって一事の娯楽に供する物を賭したりというを得ざるやもちろん

と判示しました。

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