前回の記事の続きです。
賭博の態様による常習性の認定の考え方
常習賭博罪(刑法186条1項)の常習性認定の考え方は、
- 賭博前科による常習性の認定の考え方
- 賭博の反覆累行の事実による常習性の認定の考え方
- 賭博の態様による常習性の認定の考え方
に分けることができます。
この記事では、賭博の態様による常習性を説明します。
常習賭博罪(刑法186条1項)の常習性を認知するに当たり、「賭博の態様」も常習性を認定する際の一資料となります。
過去の賭博の前科前歴がない場合であっても、賭博態様そのものから賭博の習癖(常習性)の存在を認定することは可能とされます。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正4年3月30日)
裁判所は、
- 贈博常習者なりや否や(中略)の事実の如きは、賭博罪(中略)の行為自体の態様より推理してこれを認め得べきこと証拠法上毫も疑いあることなし
と判示しました。
仙台高裁秋田支部判決(昭和31年8月21日)
裁判所は、
- 被告人Xには賭博罪の前科はないことは所論指摘のとおりであるけれども、常習賭博を認定するに当たっては必ず賭博の前科あることを必要とするものではなく、当該賭博行為の態様そのものから見て賭博の習癖の存在を肯認するに足るときはこれを常習賭博者と認定して差支えないものである
と判示しました。
東京高裁判決(昭和49年4月17日)
裁判所は、
- 刑法第186条第1項の常習性を認定するには特定の資料、殊に賭博の前科があることを要するものではなく、犯人の所為じたいについて賭博の習癖が存するものと認めることを妨げるものではない
と判示しました。
大阪地裁判決(昭和50年3月19日)
裁判所は、
- 賭博関係の前科の存在は、その認定資料として軽視できないものであるが、右前科の不存在が必然的にその常習性の否定を導くわけではなく、また、右のような習性の発現と認められる以上、たまたま捕捉された一時一回の賭博行為についても常習賭博罪が成立する
と判示しました。
東京高裁判決(昭和53年2月27日)
裁判所は、
- 常習賭博罪における常習とは「反覆して賭博行為をする習癖」をいい、その常習性を認定するに当たっては「特定の資料ことに贈博の前科があることを要するものではなく、被告人の所為自体において賭博の習癖が存するものと認定できれぱよい」とするのが判例上確定されたものであることは所論のとおりである
と判示しました。
常習性を認定するに当たり考慮される賭博態様
判例・裁判例上、賭博態様により常習性を認定する際に考慮された事項として、
が挙げられます。
①~⑦の判例・裁判例として、以下のものがあります。
① 賭博の種別
(1) 花札(東京高裁判決 昭和38年9月5日)
(2) 丁半賭博(大審院判決 昭和10年5月21日)
(3) 賽本引賭博(最高裁判決 昭和24年11月17日、最高裁判決 昭和26年8月1日)
(4) 娯楽性の乏しい賭博(東京高裁判決 昭和45年2月18日)
裁判所は、
- 本件賭博は、その方法は娯楽性の乏しい典型的な賭博方法であり
と説示し、常習賭博罪を認定しました。
② 賭博の複雑性
大審院判決(大正14年3月18日)
裁判所は、
- 賭博の種類も多く、特に「ピリカケ」「三粒」の如き複雑にして初心者の直に手を下し難き賭博を為し
と説示し、賭博の複雑性を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
③ 賭場の性格・規模
仙台高裁秋田支部判決(昭和31年8月21日)
裁判所は、
- その賭博に参集した者は14、5名の多きに上り、その内の9名が賭博を行っており
と説示し、賭博の規模を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
東京高裁判決(昭和41年9月6日)
裁判所は、
- その賭博においては玄人の賭場で常連や金持のいるいわゆる「タテ盆」などに席を占め
と説示し、賭博の性格を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
④ 賭金額の多寡
大審院判決(大正14年3月18日)
裁判所は、
- 賭金も相当多額に上れるをもって
と説示し、賭金額の多寡を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
東京高裁判決(昭和38年9月5日)
裁判所は、
- 1回の賭金額は千円ないし3万円の多額に上ることが認められる
と説示し、賭金額の多寡を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
裁判所は、
- 「本件賭博をしたときには、所持金は15,000円位で、1回に500円ないし3000円位張った。また、その前月頃にも2回位賭博をして30,000円余負けたことがある」旨の自供とを総合して、被告人を常習賭博者であると認定したものである
と判示し、賭金額の多寡を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
東京高裁判決(昭和41年9月6日)
裁判所は、
と説示し、賭金額の多寡を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
裁判所は、
- その度数も賭金の額も多く、その規模は必ずしも小さいものとはいえない
と説示し、賭金額の多寡を考慮し、常習賭博罪を認定しました。
⑤ 犯人の役割
大審院判決(昭和8年7月5日)
裁判所は、
- 「チーハー」賭博の胴元となり
と説示し、賭博の胴元であることを考慮し、常習賭博罪を認定しました。
裁判所は、
- 殊に原審の証拠として採っているAに対する(中略)尋問調書では「今度の博奕の盆(親方の意味)はXのものと思っているとの旨の供述記載」があり、右Xは被告人であるから、原審がさらに判示前科に照らし、被告人の所為を常習賭博と認定したことは実験則に反する違法があると言うことを得ない
と説示し、賭博の親方であることを考慮し、常習賭博罪を認定しました。
裁判所は、
と説示し、常習賭博罪を認定しました。
仙台高裁秋田支部判決(昭和31年8月21日)
裁判所は、
- 特に被告人は胴元としてその賭博を敢行し
と説示し、賭博の胴元であることを考慮し、常習賭博罪を認定しました。
⑥ 賭博の相手方
仙台高裁秋田支部判決(昭和31年8月21日)
裁判所は、
- 9名が賭博を行っており、かつ、A、B、C、Dらはいずれも賭博罪の前科を有する者である
と説示し、相手方が賭博罪の前科を有する者であることを考慮し、常習賭博罪を認定しました。
裁判所は、
- 賭博の相手方がそれぞれ賭博又は常習賭博罪にて処刑された者である点等を総合してこれを認め
と説示し、相手方も賭博罪で処罰された者であることを考慮し、常習賭博罪を認定しました。
東京高裁判決(昭和41年9月6日)
裁判所は、
- 顔ぶれなどの諸般の状況に徴し
と説示し、常習賭博罪を認定しました。
⑦ 営業性
広島高裁岡山支部判決(昭和31年10月9日)
賭博を生業として各地を転々とした事案で、裁判所は、
- 被告人の検察官に対する供述調書の記載によると、被告人は昭和30年10月頃より各地を転々として本件と同じ方法により街頭賭博をして歩き、昭和31年2月まで島根、広島、山口各県下において万年筆150本位をさばき、客から得た総金額は12、3万円に達し、津山に来てから同年2月12、13、14の3日にわたり、荒神様の境内で店を張り、客20人位とやって逮捕されなかったら引続き同じ方法でやるつもりであったことが認められ、また押収の証第五号等によると、被告人は当時110数本の万年筆を所持していたことが窺われ、これとA、B、Cの検察官に対する各供述調書の記載等により認められる本件賭博行為の性格、態様等を勘案すると被告人は当時他に一定の職業を有せず本件の賭博を常業とする者であることが窺われるのであるから、その常習性を認定するに何ら妨げない
と判示しました。
店舗にゲーム機等を設置して行う形態の賭博の事案で、裁判所は、
- 被告人が許可条件を全く無視し判示に示されたような遊戯営業行為をするに至っては、被告人の行為は許可によって一時の娯楽に供する物を賭ける場合に当るという性質を全く失い、単に許可条件に違反したという風俗営業取締法違反の限界を越え、純然たる賭博行為と認められるに至ったと見なければならない
- 従って、原判決が被告人の行為をもって常習賭博罪を構成するものと判断したのは正当であつて
と判示し、営業として行っていた賭博行為について、常習賭博罪の成立を認めました。
東京高裁判決(昭和49年4月17日)
店舗にゲーム機等を設置して行う形態の賭博の事案で、裁判所は、
- 被告人はこれらを営業としていることが明らかであり、このような本件所為の態様、回数、賭金額、営利性など諸般の状況に徴すれば、被告人に賭博の習癖があると認めざるを得ない
と説示し、営業として行っていた賭博行為について、常習賭博罪の成立を認めました。
大阪地裁判決(昭和50年3月19日)
店舗にゲーム機等を設置して行う形態の賭博の事案で、裁判所は、
- 判示犯行当時には、被告人にとって判示のような賭博行為の反覆は、その日常生活の中に職業活動同然として定着し、その生活態度に習性として組み入れられていたものと考えられるのであって、このような観点から、被告人は賭博の常習性を帯有していたものであり、判示賭博行為はその常習性の発現であったと認定すべきである
と説示し、営業として行っていた賭博行為について、常習賭博罪の成立を認めました。
福岡高裁判決(昭和50年9月16日)
店舗にゲーム機等を設置して行う形態の賭博の事案で、裁判所は、
- 本件遊技機が高度の賭博性を有するものであることは否定し難く、被告人は右遊技機による賭博により取得される利益に対する魅力から、当初10台を仕入れ、更に13台を買い増し、昭和47年11月初旬から同48年3月中旬にわたり、常時数か所の喫茶店等に数台以上の右遊技機を設置し、店主と共謀して多数の客を相手に賭博することを常業として継続していたものであり、多額の資金投下、その規模、期間、とりわけ右の如き高度の賭博性ある行為を営業化せる被告人の態度等からすると、賭博罪の前科がなく、他に正業を有していたことなどを充分考慮しても、被告人には賭博的志向が潜在し、同業を継続するうちにそれが漸次定着化し、右の如く常業化せる段階においてみる限り、もはや習癖となったものと認められ、原判示の本件所為は被告人のかかる習癖の発現と認めるのが相当
と判示し、営業として行っていた賭博行為について、常習賭博罪の成立を認めました。
東京高裁判決(昭和53年2月27日)
店舗にゲーム機等を設置して行う形態の賭博の事案で、裁判所は、
- 被告人には賭博関係の前科はないけれども、被告人は、本件遊技機の賭博性が強く、その性質上自動的に賭博行為を反覆累行する機能のあることを十分認識しながら、この機械を設置することにより利益をあげようとの意図のもとに、これを自己の店舗内に設置し、前後約1年2月の長期にわたり、延べ約130人の賭客を相手方としてその都度賭博に応ずる旨の意思決定のもとに、現金とコインを交換し、多数回にわたり原判示の賭博行為を反覆累行した前記認定事実に照らすと、被告人の本件賭博行為自体から被告人の賭博意欲が習癖化していたものと認めるのが相当であって
と判示し、営業として行っていた賭博行為について、常習賭博罪の成立を認めました。
店舗にゲーム機等を設置して行う形態の賭博の事案で、裁判所は、
- 被告人は、長期間営業を継続する意思のもとに、5200万円という多額の資金を投下して賭博遊技機34台を設置した遊技場の営業を開始し、警察による摘発を受けて廃業するまでの3日間、これを継続し、その間延べ約140名の客が来場して約70万円の売上利益を挙げたというのであり、その他原判示の諸事情に徴すると、被告人に賭博を反覆累行する習癖があり、その発現として賭博をしたと認めるのを妨げない
と判示し、営業として行っていた賭博行為について、常習賭博罪の成立を認めました。