前回の記事の続きです。
常習賭博罪における「常習性」とは?
常習性の意義
1⃣ 常習賭博罪(刑法186条1項)における「常習として」というのは、
賭博を反覆累行(繰り返し行うこと)する習癖が存在すること
をいいます。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正3年2月17日)
裁判所は、
と説示しました。
大審院判決(大正3年9月8日)
裁判所は、
- 賭博を常習とするとは、慣行的に賭博行為を為す習癖の存在することをいう
と判示しました。
大審院判決(大正14年12月21日)
裁判所は、
- 賭博常習者とは、賭博行為を反覆累行する習癖を有する者を指称し…
と説示しました。
裁判所は、
- 賭博常習者とは賭博を反覆累行する習癖あるものをいう
と判示しました。
裁判所は、
- 被告人に賭博を反覆累行する習癖があり、その発現として賭博をしたと認めるのを妨げないというべきであり…
と説示しました。
2⃣ 常習性の認定に当たり、慣行的に賭博をする習癖がある以上、博徒(賭博で生計を立てる者)あることを要しません。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正2年7月10日)
裁判所は、
- 苟くも賭博慣行の事情ある者は、いわゆる博徒ならざるも賭博の常習者として処罰すべきもの…
と説示しました。
大審院判決(昭和2年3月26日)
裁判所は、
- 犯人が職業として賭博に従事することを必要とするものに非ず
と判示しました。
裁判所は、
- 賭博常習者とは賭博を反覆累行する習癖あるものをいうのであって、必ずしも博徒又は遊人の類のみを指称するものではない
と判示しました。
裁判所は、
- 刑法第186条第1項にいわゆる賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖のあるものをいう立法趣旨であって、必ずしも賭博を渡世とする博徒の類のみを指すものではない
- また、かかる習癖のあるものである以上、たといそのものが正業を有しているとしてもその一事を以て直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである
と判示しました。
最高裁判決(昭和24年3月8日)
裁判所は、
- いわゆる博徒の類でないことは、賭博の常習性を認定する妨げとはならない
と判示しました。
最高裁判決(昭和24年9月15日)
裁判所は、
- 賭博の常習者とは賭博を反覆累行する習癖ある者を指すのであって、必ずしも博徒又は遊人の類のみを指称するものではない
と判示しました。
裁判所は、
- 博徒でない者でもまた賭博の方法が賭徒の行う方法でないときでも苟くも賭博を行う習癖のあるものについては常習賭博を認定し得る
と判示しました。
3⃣ 常習性の認定に当たり、本来の職業を放棄して賭博に耽溺し、あるいは生活において賭博が常態化していることまでを必要としません。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(昭和2年3月26日)
裁判所は、
- 犯人が家業を放棄して賭博にふけることはもとより常習賭博罪の要件に非ず
と判示しました。
大審院判決(昭和12年6月5日)
裁判所は、
と判示しました。
大審院判決(昭和22年4月19日)
裁判所は、
と判示しました。
裁判所は、
- 所論のようにその者の生活において賭博が常態化していることを要するものではない
と判示しました。
裁判所は、
- 必ずしも所論のような職業的な賭博、いわゆる博奕打ち又は遊人あるいは定職があっても専ら勝負事にふけって、半職業化したような特殊な存在をいうものではないことは当裁判所屡次の判例とするところであって、今なおこれを変更する必要を認めない
と判示しました。
4⃣ 他に職業を有していたとしても常習性の認定を妨げません。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正3年9月8日)
裁判所は、
と判示しました。
大審院判決(大正7年6月17日)
裁判所は、
- 一定の職業に従事する者なると否とを問わず、苟も習癖として賭博なすにおいては刑法第186条第1項の犯罪成立すべく
と判示しました。
裁判所は、
- 被告人が一定の職業を有していることも常習を認める妨となるものではない
と判示しました。
裁判所は、
- 被告人が靴修繕業に従事している者であるとしても、被告人を賭博常習者と認定するに何ら妨ぐるところでない
と判示しました。
裁判所は、
- 賭博の常習者というのは、賭博を反覆累行する習癖ある者を指すのである
- さればかかる習癖の認められる者である以上、仮に所論のように、被告人が小間物商を営み多額の営業税汲び所得税を納め、その生業に多忙の日を送っていて、本件犯行の動機が共犯者の誘惑によるものであるとしても、被告人を常習賭博者と認定するに毫も妨げるところがない
と判示しました。
裁判所は、
- かかる習癖のあるものである以上、たといそのものが正業を有しているとしてもその一事を以て直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである
と判示しました。
最高裁判決(昭和24年8月9日)
裁判所は、
- 上告論旨第1点は(中略)各被告人はそれぞれ正業を有する者で、賭金も少額な小賭博であるのに、何年も前の前科だけで常習犯と認定したのは経験則に反するというのである
- しかし、賭博常習者とは、賭博を繰り返して行う習癖のあるものを言うのであって、必ずしも博徒遊人の類のみを指すのではないから(昭和23年(れ)第370号、同年7月29日最高裁判所第1小法廷判決)、被告人らが正業を有する事実は常習性認定の妨げとならず、賭博が小規模だということも同様である
と判示しました。
最高裁判決(昭和24年9月15日)
裁判所は、
- 仮りに所論のように被告人は農業兼炭焼を業としている者で、賭博によって得た利益で生活している者ではなく、本件犯行の動機は単に一時の娯楽を求めるのに過ぎなかったとしても、被告人を常習賭博者と認定するに毛頭さまたげるところはない
と判示しました。
裁判所は、
- 被告人が平素正業に従事する場合には賭博の常習性を有することは比較的に少いであろうけれども、かかる場合に常に必ずその常習性を認めることができないという経験法則のないこと言うまでもない
と判示しました。