前回の記事の続きです。
賭博前科による常習性の認定の考え方②
常習賭博罪の常習性を認めるには、賭博前科と現在に審判の対象となっている賭博行為との間に時間的牽連性(つながり)が必要である
常習賭博罪(刑法186条1項)の常習性を認定するに当たり、前科を基礎として犯人に常習性あることを認定するには、
- 現に審判の対象となっている賭博行為とその前科との間にどの位の年月が経過したか
- その習癖が中断したかどうか
という「時間的牽連性」が必要となります。
例えば、前科から長期間が経過し賭博の習癖が中断したとみられるような場合には、その前科によって常習性を認定することはできないとされます。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正12年11月27日)
裁判所は、
- 右の事実(賭博の前科の存在)によりて常習の事責を認定するには、必ずやその各賭博行為間に賭博習癖の発現を認め得べき時間的牽連関係の存在することを要するものにして、右の如き関係の存在なきにおいては、たとえ数個の前科ありといえども、その後の賭博行為を目して常習犯なりと為すを得ざるものとす
と判示しました。
大審院判決(昭和2年6月29日)
裁判所は、
- 前科の事実を基礎として犯人に賭博の常習あることを推断するには、前科たる賭博行為と現に問擬(もんぎ)せらる賭博行為との間において犯人に賭博の慣行ありと認むべき時間的牽連関係存在し、これを包括して単一なる賭博習癖の発現なりとみることを得べき場合ならざるべからず
と判示しました。
大審院判決(昭和6年3月9日)
裁判所は、
- 単に賭博の前科のみを資料とする場合には、須く現に問擬せらるる賭博行為とその前科との間における時間の長短並びにその習癖の中絶したるや否やを吟味し、もし十年内外の長年月を存しその間賭博を敢行したる事跡のみるべきものなきにおいては、犯人の賭博慣行の習癖は中絶したるものとし、賭博の常習はこれを否定すべく、そのこれに反する推断は、実験上の法則に違反するものなること本院判例の存するなり
と判示しました。
東京高裁判決(昭和22年6月24日)
裁判所は、
- 賭博の常習とは、賭博行為を反覆する習癖をいい、裁判所が賭博犯人にその習癖のあることを認定するに当たり、賭博の前科事実をその資料としても妨げないのであるが、さてその場合には現に審判の対象となっている賭博行為とその前科との間どの位の年月が経過したか、その習癖が中断したかどうかを吟味し、もし長年月日が経過しその間賭博を敢行した事跡がみられないならば賭博の習癖はこれを否定しなければならないのはもとよりのことである…
と判示しました。
札幌高裁判決(昭和28年6月23日)
裁判所は、
- 前科の事実を基礎として犯人に常習あることを推断するには、前科間及びこれと現に問擬せられている賭博行為との間に、犯人に賭博の慣行と認むべき時間的けん連関係があり、これを包括して単一なる賭博常習の発現であるとを見ることができる場合でなくてはならない
と判示しました。
裁判所は、
- これ(前科)を基礎として賭博の常習性を認定するには、前科たる賭博行為と、現に問擬せられておる賭博行為との間において、賭博の習癖があると認め得べき時間的関連が存し、これらを包括して単一な賭博の習癖の発現があったものと認め得る場合でなければならないい
と判示しました。