刑法(常習賭博罪)

常習賭博罪(8)~「賭博前科による常習性の認定の考え方③」を説明

 前回の記事の続きです。

賭博前科による常習性の認定の考え方③

常習賭博罪の常習性を認定するに当たり、「賭博前科(過去の賭博行為)」と「現に審判の対象となっている賭博行為」との間にどの程度の同一性が必要か?

 賭博前科を常習賭博罪(刑法186条)の常習性認定の資料とする場合、「賭博前科(過去の賭博行為)」と「現に審判の対象となっている賭博行為」との間にどの程度の同一性が必要かが問題になります。

 これは、賭博前科が、本件における犯人の常習性を認定するための資料としてどの程度の証明力を持ち得るかという問題といえます。

 判例は、必ずしも両者が同一種のものであることは要しないとします。

大審院判決(大正3年2月17日)

 裁判所は、

  • 刑法第186条にいわゆる常習とは、博戯又は賭事慣行するのいうして、その博戯又は賭事は性質方法において異同あるも等しく偶然の輸贏(勝敗)を争うものなれば、博戯又賭事の常習たるには同一種類若しくは同一方法に属する博戯又は賭事を慣行することを必要とせず、ある一種の博戯の常習有るが、他の博戯又は賭事を為し若しくはある一種の賭事の常習ある者が他の賭事又は博戯を為したる場合において常習として博戯又は賭事を為したりというに妨げなし

と判示しました。

朝鮮高等法院判決(昭和13年8月25日)

 裁判所は、

  • 習癖性の認定につきては、行為者に賭博の前科存することをもって徴憑ノート為すを得べく前科たる賭博罪の内容が審判行為と同一種行為たるを要せざる

と判示しました。

大審院判決(昭和14年3月22日)

 裁判所は、

  • ある一種の博戯の常習ある者が他の博戯又は賭事を為し、若しくはある一種の賭事の常習者が他の賭事又は博戯を為したる場合においてもまた常習として博戯又は賭事を為したりというに妨げあるを見ず

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年8月11日)

 裁判所は、

  • 賭博の常習者というのは、賭博を反覆累行する習癖ある者を指すのである
  • されば、かかる習癖の認められる以上、仮に所論のように、被告人の前科である賭博が「バカ」又は「後先」であって、本件賭博が「三枚」であり、(中略)被告人を賭博常習者と認定するに何ら妨ぐるところでない

と判示しました。

賭博開張罪図利罪の前科は常習賭博罪の常習性を認定する前科になり得るか?

 賭博開張罪図利罪(刑法186条2項)の前科を資料として賭博罪の常習性を認定することについては、これを否定した判例もあります(以下①の判例)

 しかし、賭博開張の行為は賭博幇助としての側面を有する場合もあるから、一律にこれを否定すべきではないとする判例もあります(以下②の判例)。

① 大審院判決(大正13年7月22日)

 裁判所は、

  • 本来、賭博罪より独立せる別個の賭揚開張罪又はその従犯たる賭場開張幇助罪につき、たとえこを反復するの習癖を有する者といえども、この事実をもって賭博罪又は賭博幇助罪の常習性を認定するを得ざるはもちろんとす

と判示しました。

② 大審院判決(昭和11年4月13日)

 裁判所は、

  • 右賭場開張の前科は、(中略)所論の如く闘鶏賭博に関するものに係り、「チーハー」賭博ト同様、いずれも本件犯罪行為たる骨牌使用の前出と称する博奕とはその方法を異にするも、叙上証拠によれば、被告人は偶然の輸贏(勝敗)に関し、財物をもって博戯又は賭事を為すことを好み、かつその習癖あることを認むるに難からず

と判示しました。

東京高裁判決(昭和45年2月18日)

 裁判所は、

  • 賭博開張図利及び同幇助は、本来賭博罪の幇助としての性格を包含するものと考えられるから、これらの罪の前科を賭博の常習性の認定の資料とすることは、何ら妨げないものと解する

と判示しました。

競馬法違反前科を資料として同種の競馬賭博の常習性を認定することは経験則に反しない

 判例は、賭博としての実質を有する競馬法違反前科を資料として同種の競馬賭博の常習性を認定することは経験則に反しないとします。

最高裁判決(昭和23年10月12日)

 裁判所は、

  • 原判決A被告人が昭和13年に賭博の前科があるのに更に本件において数回賭博を反覆した事実並びに昭和6年、同12年、同17年及び同18年にいずれも本件と同じような賭博をし競馬法違反で処罰された旨の供述を参酌して、常習の点を認定したのである
  • 本件と同じような賭博をした競馬法違反の行為が、その性質上賭博行為であることは、前述したところによって明らかであるから、原判決が是らの事実を資料として賭博の習癖を認定したのは、経験則に反することではない

と判示しました。

詐欺賭博の事実は、賭博の常習性を認定する資料とはなり得ない

 詐欺賭博の事実は、賭博の常習性を認定する資料とはなり得ないとした判例があります。

大審院判決(昭和4年3月12日)

 裁判所は、

  • 賭博罪における賭博の常習とは、反覆して賭博行為を為すの習癖をいうものなれば、その詐欺賭博の如きその真実賭博を為すに非ずして、単に賭博行為に名をかりて他人を欺罔して金員騙取するに過ぎざる行為存在するも、犯人においては本来賭博を為すの意思を有せざるをもってかかる事実の存在によりその者に賭博慣行の習癖あることを推断するわざるは多言をせずして明なり

と判示しました。

刑の消減した前科との関係

 刑法34条の2により言渡しの効力を失った前科といえども、これによって賭博行為により処罰された事実自体が消減するものではないので、裁判例は、これを常習性を判断するための資料とすることは差し支えないとします。

大阪高裁判決(昭和28年7月13日)

 裁判所は、

  • 刑法第34条の2にいわゆる刑の言渡はその効力を失うというのは、将来に向って刑の言渡による法律上の効果を失うという意味であって、その者が以前に犯罪によって処罰せられたという事実までも消滅するものではないから、同法条によって刑の言渡の効力を失っておる前科であっても同被告人が罰金刑に処せられたという事実をもって同被告人に賭博の常習性のあることを認定する資料とすることは違法ではない

と判示しました。

累犯関係にない前科との関係

 累犯関係にない前科であっても、これによって累犯加重されることがないというだけであって、これによって賭博行為により処罰された事実自体が消滅するものではないので、判例は、これを常習性を判断する資料とすることは差し支えないとします。

大審院判決(大正12年11月10日)

 裁判所は、

  • 刑法第56条は、累犯関係の条件を定むるに過ぎざるものにして、5年を経過したる前科はこれを他の証拠又は事実状態と総合するも賭博常習性を認定するの材料とするを得ざるものと為すの精神を含蓄するものに非ず

と判示しました。

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