刑法(常習賭博罪)

常習賭博罪(9)~「賭博前科による常習性の認定の考え方④」を説明

 前回の記事の続きです。

賭博前科による常習性の認定の考え方④

 常習賭博罪(刑法186条1項)における常習性の認定に当たり、賭博前科の存在が考慮された判例・裁判例を指標とすることが有効です。

賭博前科数又は賭博の最終前科からの経過年数に言及した判例・裁判例

 賭博前科数又は賭博の最終前科からの経過年数に言及した判例・裁判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和23年4月6日)

 賭博前科10犯と賭博の最終前科から約3年3月で、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 3年以上同じ賭博行為をしなければ賭博の習癖は消滅したものと認めなければならないという実験則は存しないから、本件賭博を常習賭博と認定したからとて実験則に背して事実を認定したものということはできない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年7月14日)

 賭博前科7犯と賭博の最終前科から約5年3月で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 賭博の常習とは反履して賭博行為をする習癖をいうのである
  • それは必らずしも所論のように一個の人間の第二の天性とまでなりきる程のものであることを要しない
  • 本件記録によれば、被告人は、大正4年以来2回の賭博罪と5回の常習賭博罪によって合計7回處罰を受けている
  • そして最後は昭和17年6月17日常習賭博罪として懲役8月に處せられたものであって、右最後の処刑後本件犯行時までの間に所論のように約5年3か月の時の隔りは存する
  • しかし、被告人のごとく相当深く賭博の習癖に染まったと認められる者が、5年3か月賭博行為をしなかつたからといって―一層正確に表現すれば5年3か月の間に賭博について処罰を受けなかったからといって―その習癖が自然的に消滅してしまったと認定しなければならぬ実験測が存すると断定するわけにはいかない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年4月7日)

 賭博前科7犯と賭博の最終前科から約11年で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 賭博をした者が約11年前に常習賭博罪で懲役2月に処せられたことと当該賭博に関する押収金額、用具及び賭博の相手方がいずれも賭博罪又は常習賭博罪で処刑された者であることを総合して賭博の常習性を認定しても差支えない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年2月24日)

 賭博前科4犯と賭博の最終前科から約2年で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 刑法第186条第1項にいわゆる賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖のあるものをいう立法趣旨であって、必ずしも賭博を渡世とする博徒の類のみを指すものではない
  • また、かかる習癖のあるものである以上、たといそのものが正業を有しているとしてもその一事をもって直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである

と判示しました。

最高裁判決(昭和26年8月1日)

 賭博前科4犯と賭博の最終前科から約4年で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 賭博の前科のみによって賭博の常習性を認定することは必らずしも違法ではなく、また所論の右最終前科と本件賭博との間にたとい4年の歳月を経過していればとて、右前科を賭博常習認定の一資料とすることに何ら経験則上の違背も認めることはできない

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年7月29日)

 賭博前科3犯と賭博の最終前科から約1年6月で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • かように比較的長くない年月の間に繰返し賭博罪で処罰され、今また本件賭博罪を犯したという事実に基いて、被告人に賭博を反覆累行する習癖があると推断することは、必ずしも首肯するに難からぬところである
  • 原審が被告人を賭博常習者と認定したのは、賭博前科の度数のみに基いたのではなく、前科とその時間的関係を斟酌した結果によるものであることは前説示の通り

と判示しました。

大審院判決(大正12年2月15日)

 賭博前科3犯と賭博の最終前科から約5年で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 常習賭博罪は、習癖として賭博行為を反復するによりて成立するものにして、賭博犯人が前に賭博罪により刑に処せられたる事実は、常に必ずしもこれによりてそのどの賭博行為を常習犯と認めざるべからざるものに非ずといえども、同時にまたその事実を判断の資料に供して常習賭博を認定するも妨げなし
  • けだし、これの如きは裁判所の事実認定に関する職権の範囲に属し、その前科たる賭博行為と当該事案における賭博行為とを総合して常習賭博の事実を認べきや否やは、裁判所の自由なる心証をもって判断することを得べきものなるが故なり
  • 原判示によれば、被告人は、伊郡区裁判所において大正4年10月賭博罪により罰金20円に、同5年2月同罪により懲役2月に、同6年5月に同罪により懲役5月に処せられたるにかかわらず、更にまた大正11年8月6日判示博戯を為したる者にして、右被告人が前に賭博罪により3回処刑せられたる事実と本件賭博を為したる事実とに鑑みれば、被告人は常習として判示博戯を為したるものと推断するに難しからず

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年12月6日)

 賭博前科2犯と賭博の最終前科から1年以内で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 原審は、所論のように被告人が昭和21年および翌22年いづれも高山区裁判所において賭博罪により罰金刑に処せらた事実と昭和22年9月14日頃行われた本件賭博の事実によって被告人が常習として本件賭博罪を犯したものと認定したのであって、これらの証拠から認められる状況によって被告人の賭博の習癖があったものと認定することは、少しも実験則に反するところはない

と判示しました。

最高裁判決(昭和26年3月15日)

 賭博前科2犯と賭博の最終前科から1年以内で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 賭博常習者というのは賭博を反覆累行する習癖を有する者の義であって、必ずしも所論のような職業的な賭博、いわゆる博奕打ち又は遊人あるいは定職があっても専ら勝負事にふけって、半職業化したような特殊な存在をいうものでないことは当裁判所屡次の判例とするところであって、今なおこれを変更する必要を認めない
  • そして原審は被告人Aが賭博罪によつて高山区裁判所で昭和20年四4月14日と同21年7月12日とにそれぞれ罰金刑に処せられ、更に同年12月中頃から同22年1月中頃までに約10回にわたり本件賭博罪を犯したという事跡に鑑み被告人Aをもって賭博を反覆累行する習癖を有する者と認定したのであるから、原判決には所論のような法令の解釈適用を誤った違法は認められない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和41年9月6日)

 賭博前科2犯と賭博の最終前科から1年以内で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 被告人Hには戦後昭和39年12月26日賭博、昭和40年3月26日賭博の前科2犯があるにもかかわらず、本件賭博行為に及んだものであり、本件において短期間に2回連続して賭博行為を反覆しており、かつその賭博においては玄人の賭場で常連や金持ちのいるいわゆる「タテ盆」などに席を占め、賭徒仲間でいういわゆる「バッタ撒き」の博奕をしたもので、その態様、度数、賭金額、寺銭、顔ぶれなど諸般の状況に徴し、被告人の本件賭博行為はその賭博の習癖が発現したものとみられるから、本件賭博行為は常習賭博と認定するを相当

としました。

最高裁判決(昭和23年10月7日)

 賭博前科2犯と賭博の最終前科から約3年で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 賭博の常習者として2回までも処罰された者がさらに犯した賭博であるとしたら、それが単に最後の前科のときから3年余りの後の犯行であるというだけでの事由で、賭博を反覆累行する習癖のあらわれでないとは必ずしもいうことができない

と判示しました。

大審院判決(昭和11年2月27日)

 賭博前科1犯とその前科から約1月で、本件賭博態様及び本件が前科と同一態様の賭博であることも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 刑法第186条第1項の罪は、賭博常習の身分を有する者の犯したる賭博罪なれば、その常習事実を証明するに当たりては、必ずしも本案の賭博行為以前の事実によることを要せず、現に公訴に係る事案における賭博行為が数回反復してる累行せられたる事情を資料と為し得るのみならず、該事情に他の証拠を総合してこれを認定するは、毫も違法に非ず
  • 原判決を閲するに、被告人の賭博常習者たる点を証明するに当たり、本件賭博行為自体のほか、被告人の前科調書及び第一審公判調書中該前科が本件と同一態様なりし旨の被告人の供述記載とを総合してこれを認めたるものなれば、所論(※弁護人の主張)のごとく理由齟齬するものというをえず

と判示しました。

広島高裁岡山支部判決(平成3年10月18日)

  賭博前科1犯と賭博の最終前科から約5年6月で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 原判決は、「被告人の賭博前科が一犯のみで、その内容も2日間の申込みで、賭金の合計額も21万円でそれほど多額でなく、また、その略式命令が発布されてから本件野球賭博がなされるまで、5年半余りの期間が経過していて、その間、日ごろ賭博行為を反復していたり、賭博をいわゆる「しのぎ」としたりしていた証拠はない。」 判示するが、同前科の内容となっている野球賭博がなされた当時、被告人に賭博常習性がうかがわれることは、前述のとおりであり、しかも、同5年半余りの期間には服役などのため社会内で賭博をすることが可能であった期間は、約3年間であり、被告人はその間正業に就かず、暴力団組員として生活していたこと、職業的に賭博をする者でなくとも賭博の常習者と認定することは可能であることに照らすと、同前科は、被告人に賭博の常習性があることを示す根拠として相当の評価をすべきである

と判示しました。

賭博前科数のみに言及した判例

 賭博前科数のみに言及した判例・裁判例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年10月8日)

 賭博前科4犯で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 被告人の前科調書によると被告人に賭博の前科が4回あるのである
  • 原審は右事実等から被告人の本件賭博を常習賭博と認定したものであって、その認定は事実審たる原審の判断に委せられている事項である

と判示しました。

最高裁判決(昭和26年11月6日)

 賭博前科3犯で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 原裁判所が論旨に摘録するような被告人Dの3回に及ぶ賭博の前科あるにかかわらず更に本件の賭博所為に及んだ事跡により同被告人が常習として賭博を為したものと認定したことは経験法則に違反するものと言うことはできない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年11月22日)

 賭博前科2犯で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 原審は、被告人が(1)昭和19年4月26日岡山区裁判所において常習賭博罪により懲役4月に、(2)昭和20年11月7日同裁判所において同罪により懲役10月に処せられたにかかわらず本件賭博を行った事実を考慮して賭博の常習性を認定したものであって、これらの証拠からそのように認定することは実験法則に反するものではない

と判示しました。

最高裁判決(昭和26年4月10日)

 賭博前科1犯で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 原判決挙示の証拠によつて各被告人に賭博の習癖があったものと認定することは、たとい所論のような終戦後の社会状勢を考慮にいれても、何ら実験則に反するところはない

と判示しました。

賭博前科からの年数のみに言及した判例・裁判例

1⃣ 賭博前科からの年数のみに言及した判例・裁判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和25年4月7日)

 賭博前科から約10年後の犯行で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 賭博の前科のほかに賭博常習性を認定する資料のある場合には、たといその前科の事実は10年以前のものであっても、これを賭博常習性認定の資料に供することは差支えない

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年3月28日)

 賭博前科から約6年4月の犯行で常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 6年以上賭博行為により罰せられた事実がなければ賭博の習癖は消滅したものと認めなければならないという実験則は存在しないから、原審が本件賭博を認定したからとて、実験則に違背して事実を認定したということはできない

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年11月17日)

 賭博前科から約5年の犯行で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 原判決は証拠説明において「被告人両名がいずれも常習として判示賭博をなした点は被告人両名の判示各前科と本件賭博所為とによりこれの認める」と判示している
  • そして本件賭博が賽本引という玄人筋との賭博であるから、かりに被告人らは判示各前科の後4ないし5年余間賭博をしなかったとしても、それにもかかわらず被告人らの判示各前科と本件犯行の事跡によって原審が被告人らを賭博者と一認定したからといって、この認定が証拠に基かず又は経験則に反する違法のもとはいえない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和45年2月18日)

 賭博前科の仮出獄後1年以内の犯行で、本件賭博態様をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 本件賭博は、その方法は娯楽性の乏しい典型的な賭博方法であり、全体として、その度数も賭金の額も多く、その規模は必ずしも小さいものとはいえないこと及び被告人Aは、昭和38年頃から博徒集団であるB会C一家に所属する博徒となり、同40年4月6日賭博開張図利幇助罪により懲役1年3月に処せられてその執行を受け、続いて他の刑の執行を受け同43年12月17日仮出獄となるや、2日後に本件犯行に及んだものであり、被告人Dは、同37年頃から右C一家に所属する博徒となり、同37年12月6日賭博罪により罰金5000円に処せられ、同40年4月6日賭博開張図利罪により懲役1年10月に処せられ(同41年4月27日確定)てその執行を受け、同43年2月5日仮出獄となり、その後1年を経ずして本件犯行に及んだもので、本件における賭博の回数、賭金額及び賭金の額は賭客中最も多いことがそれぞれ認められ、以上の事実を総合考察すると、論旨第二における所論主張のように、本件賭博が必ずしも計画的に行われたものでないこと、開張者もなく、賭客も小人数であること、被告人Aの賭博の回数及び賭金額が比較的少いこと並びに被告人Dが前刑終了後定職をもっていることが窺われる等の事情を参酌はしてみても、なお、原判決が、被告人等の本件賭博の常習性を認定したのは相当であると認めざるをえない

と判示しました。

2⃣ 賭博前科による処罰と本件賭博行為との間に他罪による服役期間がある場合、その服役中は賭博はできないのであるから、服役していない場合と同様に評価することはできないと考えられますが、この点につき、窃盗罪等による服役期間があるとしても賭博の習癖が矯正又はせん除されたものと即断することはできないとした裁判例があります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和31年8月21日)

 裁判所は、

賭博罪以外の罪により服役中(中略)賭博をなしえなかったとしてもそれがために賭博の習癖が矯正又はせん除されたものと即断しえないことはもちろんである

と判示し、本件賭博態様等をも考慮し、常習賭博罪の成立を認めました。

広島高裁岡山支部判決(平成3年10月18日)

 賭博前科による処罰後約5年6月が経過しているものの、その間の監禁罪による服役期間を控除すると、社会内で賭博をすることが可能であった期間約3年間にすぎないと評価し、常習賭博罪の成立を認めました。

賭博前科による常習性の認定が否定された裁判例

 賭博前科による常習性の認定が否定された裁判例として、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和28年7月13日)

 賭博前科から14年余前の犯行で、賭博前科による常習性は否定したが、前科以外の事実により常習性を認定した判決です。

 裁判所は、

  • 賭博の常習性を認定するには、前科たる賭博行為と、現に問擬(もんぎ)せられておる賭博行為との間において、賭博の習癖があると認め得べき時間的関連が存在し、これらを包括して単一な賭博の習癖の発現があつたものと認め得る場合でなければならない
  • 原判決によると、同被告人は、昭和13年1月賭博罪により罰金刑に処せられ、次に昭和24年4月25日同罪により罰金刑に処せられたのであって、その間に11年有余の歳月を経ており、また、件の賭博行為から見れば14年余を経過しておるから、前記昭和13年1月の賭博前科が1個であるか2個であるかの調査はしばらくおくとしても、右昭和13年の前科たる賭博行為とその後の賭博行為との関係においては、被告人に賭博の習癖があると認め得べき時間的関連性がないものと解するを相当とする
  • 原判決が右昭和13年1月の賭博前科をもって賭博常習性認定の資料にしたのは法令の解釈適用を誤っておるが、同被告人及びFの検察事務官に対する各第1、第2回供述調書によると、同被告人の前記昭和24年の賭博前科は本引賭博であること、同被告人は、その後、昭和27年1月末頃及び同年2月末頃、原審相被告人F方において本引賭博をしたこと、同被告人が原判示の日現金1万2000円を持って右F方に行って本件の手本引賭博を為し、その胴師となったことを各認め得るから、前記昭和13年の賭博前科を除いても、上記の事実だけで、被告人に賭博の習癖があり、本件賭博は右習癖の発現として為されたものであることを認定することができるので、原判決が本件を常習賭博と認定したのは結局において正当であり、前記の違法は判決に影響を及ぼさないと言える

と判示しました。

大審院判決(昭和2年6月29日)

 賭博前科から約10年余の犯行につき、常習賭博罪の成立を否定した判決です。

 裁判所は、

  • その間賭博行為を為したる事跡の認むべきものなしとせば、該前科たる賭博犯当時における被告の賭博慣行の習癖は中絶したりと認むるを妥当すべく

と判示しました。

大審院判決(大正12年11月27日)

 賭博前科から9年以上の犯行につき、常習賭博罪の成立を否定した判決です。

 裁判所は、

  • その間に賭博習癖の発現を推断し得べき牽連關係ありと認むるを得ざるは、実験法則上、極めて明瞭

と判示しました。

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