前回の記事の続きです。
賭博開張図利罪における寺銭、賭客に対する貸付け準備金の没収
1⃣ 賭博開張図利罪(刑法186条2項)で得た寺銭は、犯罪行為によって得た物(刑法19条1項3号)として没収できます。
この点に関する以下の判例があります。
東京高裁判決(昭和36年10月10日)
裁判所は、
- 押収にかかる現金5714円(中略)は、本件賭場開張罪によって得た寺銭であって、犯人以外の者に属しないことが明らかであるから、原判決がこれに対し刑法第19条第1項第3号、第2 項を適用し、これを没収したのは正当である
と判示しました。
2⃣ 賭博開張者が用意した賭客に対する貸付け準備金は犯行に供しようとした物(刑法19条1項2号)として没収できるとした裁判例があります。
裁判所は、
- 右の如き賭博開張者によって賭博の現場に持ち込まれ、寺箱代用の手提鞄中に一般寺銭と一緒に、賭客に対する貸付け準備金として入れられてあった金員は、これによって賭客の賭博行為を誘い、賭博の開張行為の継続を図るため、重要な役割りを果すものであって、この意味において該金員は、結局、賭博開張の用に供されようとするものであるとみることができる
- 以上の点からすれは所論の金員は、刑法19条1項2号にいう犯罪行為に供せんとしたる物にあたると解釈するのが相当
と判示しました。
賭博開張図利罪において賭金は没収できない
賭金は、賭博罪における犯行供用物件ではありますが、賭場開張行為自体に供されるものではないことから、賭場開張図利罪との関係では、その付加刑として没収することはできませn。
なお、賭金は、賭博罪(刑法185条)又は常習賭博罪(刑法186条1項)の付加刑として没収することになります。
この点に関する以下の判例があります。
名古屋高裁金沢支部判決(昭和34年8月25日)
裁判所は、
と判示しました。
東京高裁判決(昭和36年10月10日)
裁判所は、
- 凡そ刑法第19条第1項各号により没収することが出来る物は、起訴にかかる当該被告事件の犯罪行為に供し、又は供せんとした物、あるいはこれによって得た物等を指称するものと解するから、賭場開張図利被告事件において、賭客が所持していた現金の如きはこれを没収することを得ないといわなければならない
と判示しました。
裁判所は、
- 賭銭及び賭銭は、法律上、賭場開張罪の構成要素をなすものとはいえず、したがって、本件犯罪行為を組成したものには当らないというべきであり、他に右各金銭の没収を適法かつ相当ならしめるべき事由を認めることができない
と判示しました。
広島高裁松江支部判決(昭和41年7月11日)
裁判所は、
- 賭客が賭博に供するための前記賭銭は、法律上、賭博開張罪の組成物件でも供用物件でもなく、また右両者の間には共犯関係の処断上一罪の関係もないから、開張罪の関係では刑法第19条第1項各号のいずれにも該当しない
- 従って、原判決が右賭客の賭銭である現金を被告人から没収したのは右法条の解釈適用を誤ったもの
と判示しました。
東京高裁判決(昭和41年11月17日)
裁判所は、
- 右領置に係る金員は賭銭であって、盆ござの上に散乱していた金員である旨の記載もあり(中略)その他本件犯行現場に居合わせたBの司法警察員に対する(中略)供述調書(中略)には右金員の大部分は本件賭場における賭銭であって、かつ該賭博に参集した賭客中のなんぴとかの所有に属し、前叙被告人所有の両替用及び釣銭用の金員との区別ができないと認められるから、本件5千30円はその全部につきこれを本体賭博場開張図利罪に関し刑法第19条第1項各号により被告人から没収すべからざるものである
と判示しました。
賭博開張行為として不可欠な行為が同時に賭博行為を含んでいるという場合の賭博行為によって得た収益は、賭博開張図利罪との関係で没収できる
賭博開張行為として不可欠な行為が同時に賭博行為を含んでいるという場合(例えば、バカラ賭博)の当該賭博行為によって得た収益は賭博開張罪の付加刑として没収・追徴できます。
この点に関する以下の判例があります。
大阪高裁判決(平成17年1月20日)
裁判所は、
- 店が客と勝負していたことそれ自体は、前記説示のとおり、店において、バカラ賭博を成立させることによって、店がコミッション(寺銭)を取得して利益を図るための手段として行われたもので、賭博開張図利罪に含めて評価され、これとは別個の常習賭博罪が成立するものではないと解されるから、そのような手段として行われた行為によって得られた勝金も、賭博開張図利罪によって得たものと評価して差し支えない
- そして、これを実質的にみても、さらなる賭博開張図利の犯罪に再投資され得る性質を持ったものであったと認められるから、このような場合、店が客と勝負して得た勝金についても、賭博開張図利罪によって得た収益に当たり、これを刑法第19条に基づき、任意的没収の対象とすることができると解するのが相当である
と判示しました。
メモ類の没収
賭金の本数等を記載した精算のためのメモ類につき、賭博開張図利罪の犯行供用物件(刑法19条1項2号)として没収しても違法ではないとした判例があります。
東京高裁判決(昭和27年6月21日)
裁判所は、
- 右の紙片は、本件の闘鶏賭博に際し、被告人が、精算上の覚のため、賭客名と、その賭金の本数(1本百円)とを記載しておいたものであって、司法警察員のため、現行犯人として逮捕された際、その現場附近にあったものを発見されたものであることが明らかであるから、本件賭博場開張の犯罪行為に供した物といい得ない訳でもないし、また、犯人たる被告人又はその共犯者(賭博場開張者と賭博実行者とは必要的共犯である)ら以外の者の所有に属しないものと認めるのが相当であるというべく、従って、原判決が前示の理由により、刑法第19条第1項第2号、第2項を適用して、これを没収したからといって、違法であるということはできない
と判示しました。