前回の記事の続きです。
この記事では、文書偽造・変造の罪(刑法18章)に共通する概念を説明します。
代理・代表資格を冒用して文書を作成した場合、文書偽造罪が成立する
代理・代表資格を冒用して文書を作成した場合、文書偽造罪が成立します。
代理・代表資格を冒用して文書を作成した場合の文書の名義人(作成者)と文書偽造罪の成立の考え方を説明します。
Bが、個人Aの代理人又は団体(会社等)A の代表者として、「A代理人B」又は「A代表者B」の文書を作成した場合、当該文書の作成者は、BがAの代理権・代表権を有していればAですが、有していなければBとなります。
例えば、Bが山田太郎の代理人であった場合に、Bが「山田太郎の代理人B」と記載した山田太郎名義の文書を作成すれば、Bには山田太郎の代理権があるので、文書偽造罪は成立しません。
しかし、Bが山田太郎の代理人ではないのに、Bが「山田太郎の代理人B」と記載した山田太郎名義の文書を作成すれば、Bは権限なく山田太郎の名義の文書を作成したことになるので、文書偽造罪が成立します。
例えば、Bが株式会社山田の代表者であった場合、Bが「株式会社山田の代表者B」と記載した株式会社山田名義の文書を作成すれば、Bには株式会社山田の代表権があるので、文書偽造罪は成立しません。
しかし、Bが株式会社山田の代表者ではないのに、Bが「株式会社山田の代表者B」と記載した株式会社山田名義の文書を作成すれば、Bは権限なく株式会社山田の名義の文書を作成したことになるので、文書偽造罪が成立します。
それでは、上記文書の名義人は誰と考えるべきでしょうか(文書の名義人はBなのか、それともAなのか)?
BがAの代理権・代表権を有している場合は、名義人をどのように考えようと、作成された文書の効力がAに及ぶから問題は生じません。
しかし、BがAの代理権・代表権を有していない場合、つまり、BがAの代理・代表資格を冒用して文書を作成した場合は、その文書の名義人をBとみるか(真正文書となる)、その他の者とみるか(不真正文書となる)で文書偽造罪の成否の結論が異なります。
判例は、他人の代理・代表資格を有する者が、その資格に基づき文書を作成した場合、効力が本人(A)に及ぶから、本人(A)名義の文書であるとした上で、そうした資格を冒用して文書を作成した場合にも、名義人は資格を冒用された者(A)とみるべきであるから、不真正文書であって文書偽造罪が成立すると解しています。
大審院判決(明治42年6月10日)
裁判官は、
- おおよそ他人の代理者たる資格をもって文書を作成する立場において、その代表者は自己のためにこれを作成するものにあらずして本人すなわち被代理者のためにこれを作成するものなれば、その文書は代理者その人の文書にあらずして本人の文書に属し、従って、該文書は代理者に対しその効力を生ずるものにあらずして本人に対しその効力を生ずるものと論定せざるべからず
- 故に、苟も他人の代理者たる資格を詐り文書を作成するにおいては、その効果は直接に他人の署名を詐り文書を作成したる場合と敢えて選ぶところなきをもって刑法第159条第1項所定の犯罪中には前記の所為をも包含する
としました。
代表名義の文書の名義人について、裁判所は、
- 他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書の名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である
と判示しました。