前回の記事の続きです。
この記事では、文書偽造・変造の罪(刑法18章)に共通する概念を説明します。
コピーによる文書偽造
コピーによる文書偽造罪の類型は、
- 公文書の原本に改ざんを加えて偽造文書を作成し、それを電子複写してコビーを作成する場合(最高裁決定 昭和54年5月30日、最高裁決定絵 昭和61年6月27日)
- 複数の書面を切り貼りするなどの合成的方法により公文書の外観を有する偽造文書を作成し、それを更に電子複写してコピーを作成する場合(最高裁判決 昭和51年4月30日)
- 公文書を電子複写したものに改ざんを加え、それを更に電子複写してコピーを作成する場合(最高裁決定 昭和58年2月25日)
の3つがあります。
判例は①~③のいずれについても文書偽造罪の成立を認めています。
コピーによる文書偽造罪の成立を認めた判例として、以下のものがあります。
虚偽の供託事業を記入した供託書用紙の下方に真正な供託金受領書から切り取った供託官の記名印及び公印押捺部分を接続させて電子複写機で複写する方法により、あたかも、公務員である供託官が職務上作成した真正な供託金受領書を原本として、これを原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を有する写真コピーを作成したことが、刑法155条1項の公文書偽造罪に当たるかが問われた事案です。
裁判所は、
- 公文書偽造罪は、公文書に対する公共的信用を保護法益とし、公文書が証明手段としてもつ社会的機能を保護し、社会生活の安定を図ろうとするものであるから、公文書偽造罪の客体となる文書は、これを原本たる公文書そのものに限る根拠はなく、たとえ原本の写であっても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、これに含まれるものと解するのが相当である
とした上、
- 手書きの写のように、それ自体としては原本作成者の意識内容を直接に表示するものではなく、原本を正写した旨の写作成者の意識内容を保有するに過ぎず、原本と写との間に写作成者の意識が介在混入するおそれがあると認められるような写文書は、それ自体信用性に欠けるところがあって、権限ある写作成者の認証があると認められない限り、原本である公文書と同様の証明文書としての社会的機能を有せず、公文書偽造罪の客体たる文書とはいいえないが、写真コピーについては写ではあるが、複写した者の意識が介在する余地のない、機械的に正確な複写版であって、紙質等の点を除けば、その内容のみならず、筆跡、形状にいたるまで、原本と全く同じく正確に再現されているという外観をもち、また、一般にそのようなものとして信頼されうるような性質のもの、換言すれば、これを見る者をして、同一内容の原本の存在を信用させるだけではなく、印章、署名を含む原本の内容についてまで、原本そのものに接した場合と同様に認識させる特質をもち、その作成者の意識内容でなく、原本作成者の意識内容が直接伝達保有されている文書とみうるようなものであるから、このような写真コピーは、そこに複写されている原本が右コピーどおりの内容、形状において存在していることにつき極めて強力な証明力をもちうるのであり、それゆえに、公文書の写真コピーが実生活上原本に代わるべき証明文書として一般に通用し、原本と同程度の社会的機能と信用性を有するものとされている場合が多いのである
- 右のような公文書の写真コピーの性質とその社会的機能に照らすときは、右コピーは、文書本来の性質上写真コピーが原本と同様の機能と信用性を有しえない場合を除き、公文書偽造罪の客体たりうるものであって、この場合においては原本と同一の意識内容を保有する原本作成名義人作成名義の公文書と解すべきであり、また、右作成名義人の印章、署名の有無についても、写真コピーの上に印章、署名が複写されている以上、これを写真コピーの保有する意識内容の場合と別異に解する理由はないから、原本作成名義人の印章、署名のある文書として公文書偽造罪の客体たりうるものと認めるのが相当である
とし、そして、
- 原本の複写自体は一般に禁止されているところではないから、真正な公文書原本そのものをなんら格別の作為を加えることなく写真コピーの方法によって複写することは原本の作成名義を冒用したことにはならず、したがって公文書偽造罪を構成するものでないことは当然であるとしても原本の作成名義を不正に使用し、原本と異なる意識内容を作出して写真コピーを作成するがごときことは、もとより原本作成名義人の許容するところではなく、また、そもそも公文書の原本のない場合に、公務所または公務員作成名義を一定の意識内容とともに写真コビーの上に現出させ、あたかもその作成名義人が作成した公文書の原本の写真コピーであるかのような文書を作成することについては右写真コピーに作成名義人と表示された者の許諾のあり得ないことは当然であって、行使の目的をもってするこのような写真コピーの作成は、その意味において、公務所または公務員の作成名義を冒用して、本来公務所または公務員の作るべき公文書を偽造したものにあたるというべきである
としました。
この判決は、
- 写真コピーは、手書きの写しとは異なり、そこに複写されている原本がコピーどおりの内容、形状において存在していることにつき極めて強力な証明力を持ち得るものであり、原本と同程度の社会的機能と信用性を有するものとされている場合が多いことなどに照らし、原本と同様に扱われるべきであること
- 写真コピーに印章、署名がある場合は、有印文書と解すべきであること
- 内容が虚偽の写真コピーを作成した場合だけが有形偽造になること
を説示している点が注目されます。
※ 有形偽造とは、文書の作成権限がない人が他人名義の文書を作成することをいいます。
行使の目的をもって、ほしいままに、京都府亀岡土木工営所長の記名押印のある同所長作成名義の土石採取許可証原本の出願日、許可年月日、採取場所、採取期間等の各欄の記載に改ざんを施した上、これを電子複写機で複写する方式により、あたかも真正な右許可証原本を原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を備える電子コピーを作成した行為は、刑法155条1項の有印公文書偽造罪に当たるとしました。
裁判所書記官の認証がある裁判所の固定資産処分許可書謄本を電子複写機で複写したものにつき、許可事項欄の土地名、売却不動産表示欄の不動産、売却代金欄の金額等の各記載に改ざんを施し、これを更に電子複写機で複写する方法により作成され、あたかも真正な右許可書謄本を原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を有する本件コピーは刑法155条1項の有印公文書偽造罪に当たるとしました。
行使の目的をもって、ほしいままに、営林署長の記名押印がある売買契約書の売買代金欄等の記載に改ざんを施すなどした上、これを複写機械で複写する方法により、あたかも真正な右売買契約書を原型どおり正確に複写したかのような形式、外観を備えるコピーを作成した行為は、その改ざんが原本自体にされたのであれば未だ文書の変造の範ちゅうに属すると見られる程度とどまっているとしても、刑法155条1項の有印公文書偽造罪に当たるとしました。