刑法(文書偽造・変造の罪)

文書偽造・変造の罪(29)~行使の概念⑨「偽造・変造した文書を写真コピーした場合、公文書偽造罪が成立する」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、文書偽造・変造の罪(刑法18章)に共通する概念を説明します。

偽造・変造した文書を写真コピーした場合、公文書偽造罪が成立する

 偽造・変造した文書を写真コピーした場合、公文書偽造罪が成立します。

 写真コピーが公文書偽造罪を成立させることについては、次の記事で説明する「偽造・変造・虚偽文書のファクシミリ、スキャナーを用いた行使」の話につながってくるので、ここで説明するものです。

 写真コピーと偽造の問題については、最高裁判決(昭和51年4月30日)において、公文書の写真コピーの作成が公文書偽造罪に当たると判断されています。

 事案は、虚偽の供託事業を記入した供託書用紙の下方に真正な供託金受領書から切り取った供託官の記名印及び公印押捺部分を接続させて電子複写機で複写する方法により、あたかも、公務員である供託官が職務上作成した真正な供託金受領書を原本として、これを原形どおり正確に複写したかのような形式、外観を有する写真コピーを作成したというものです。

 裁判官は、

  • 公文書偽造罪は、公文書に対する公共的信用を保護法益とし、公文書が証明手段としてもつ社会的機能を保護し、社会生活の安定を図ろうとするものであるから、公文書偽造罪の客体となる文書は、これを原本たる公文書そのものに限る根拠はなく、たとえ原本の写であっても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、これに含まれるものと解するのが相当である
  • 写真機、複写機等を使用し、機械的方法により原本を複写した文書(以下「写真コピー」という)は、写ではあるが、複写した者の意識が介在する余地のない、機械的に正確な複写版であって、紙質等の点を除けば、その内容のみならず筆跡、形状にいたるまで、原本と全く同じく正確に再現されているという外観をもち、また、一般にそのようなものとして信頼されうるような性質のもの、換言すれば、これを見る者をして、同一内容の原本の存在を信用させるだけではなく、印章、署名を含む原本の内容についてまで、原本そのものに接した場合と同様に認識させる特質をもち、その作成者の意識内容でなく、原本作成者の意識内容が直接伝達保有されている文書とみうるようなものであるから、このような写真コピーは、そこに複写されている原本が右コピーどおりの内容、形状において存在していることにつき極めて強力な証明力をもちうるのであり、それゆえに、公文書の写真コピーが実生活上原本に代わるべき証明文書として一般に通用し、原本と同程度の社会的機能と信用性を有するものとされている場合が多いのである
  • 右のような公文書の写真コピーの性質とその社会的機能に照らすときは、右コピーは、文書本来の性質上写真コピーが原本と同様の機能と信用性を有しえない場合を除き、公文書偽造罪の客体たりうるものであって、この場合においては原本と同一の意識内容を保有する原本作成名義人作成名義の公文書と解すべきであり、また、右作成名義人の印章、署名の有無についても、写真コピーの上に印章、署名が複写されている以上、これを写真コピーの保有する意識内容の場合と別異に解する理由はないから、原本作成名義人の印章、署名のある文書として公文書偽造罪の客体たりうるものと認めるのが相当である
  • 原本の作成名義を不正に使用し、原本と異なる意識内容を作出して写真コピーを作成するがごときことは、もとより原本作成名義人の許容するところではなく、また、そもそも公文書の原本のない場合に、公務所または公務員作成名義を一定の意識内容とともに写真コピーの上に現出させ、あたかもその作成名義人が作成した公文書の原本の写真コピーであるかのような文書を作成することについては、右写真コピーに作成名義人と表示された者の許諾のあり得ないことは当然であって、行使の目的をもってするこのような写真コピーの作成は、その意味において、公務所または公務員の作成名義を冒用して、本来公務所または公務員の作るべき公文書を偽造したものにあたるというべきである

と判示しました。

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