刑法(文書偽造・変造の罪)

文書偽造・変造の罪(5)~「文書偽造の罪の『文書』の性質・要件である『永続性』」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、文書偽造・変造の罪(刑法18章)に共通する概念を説明します。

文書偽造の罪の「文書」の性質・要件である「永続性」を説明

 文書偽造の罪(刑法18章)における「文書」の性質・要件を整理すると

  • 可視性・可読性
  • 電磁的記録
  • 永続性
  • 意味の了解可能性
  • 社会的重要性
  • 確定性・原本性
  • 認証のある写し・謄本

に分けることができます。

 この記事では、「永続性」について説明します。

 文書偽造の罪(刑法18章)における「文書」は、

ある程度永続すべき状態において、物体の上に表示されたものであること

を要します(大審院判決 明治43年9月30日)。

 砂の上に書かれた文字や、板の上に水書きされた文字などは、永続性に欠けるから文書ではありませんが、ある程度永続的であれば足り、永久性までは要しないので、

なども文書となります。

 また、文書は、紙その他の書面上に記載される場合が多いですが、

  1. 皮革
  2. 木板
  3. 石材
  4. 陶器
  5. 金属板

などでも差し支えありません(大審院判決 明治43年9月30は、入札用陶器への記載につき、文書偽造罪の成立を認めています)。

 また、上記①~⑥などの物体に表示する方法についても特段の制約はなく、

  • インクや墨などで書くこと
  • タイプライター、印刷機、プリンターなどで印刷・印字すること
  • 染料を用いて布や皮革を染め付けること
  • 糸で刺繍すること

などでもよいです。

 なお、コンピュータのディスプレーに映し出された画像データは文書といえるかについて、学説において、

  1. 記録時間が比較的短くても永続性は認められ、ハードディスク等に記録・保存された磁気による情報も、ディスプレーを通じて人に認識できる以上は可視性・可読性を肯定し得ないではない等の理由で文書性を肯定する見解
  2. コンピュータのディスプレーに映っているとはいえ、記載されているわけではない画像データは、永続性の要件(さらには、可視性・可読性の要件)をどのように判断するかに関わるが、スイッチを切れば消滅するのであるから、永続性の要件を欠く等の理由で文書性を否定する見解
  3. 要件の該当性は肯定できるとしつつ、電磁的記録の独自性を認めた刑法161条の2の趣旨が妥当する範囲では、画像データの文書性を否定すべきとする見解

があり、見解が分かれています。

次の記事へ

文書偽造・変造の罪の記事一覧

過去の記事