前回の記事の続きです。
この記事では、刑法190条の罪(死体遺棄罪、死体損壊罪、死体領得罪、遺骨等遺棄罪、遺骨等損壊罪、遺骨等領得罪、棺内蔵置物遺棄罪、棺内蔵置物損壊罪、棺内蔵置物領得罪)を「本罪」といって説明します。
本罪と①軽犯罪法違反(死体等不申告の罪、変死現場等変更の罪)、②船員法違反(水葬命令違反の罪)との関係
この記事では、本罪(刑法190条)と、
との関係を説明します。
① 本罪と軽犯罪法違反(死体等不申告の罪、変死現場等変更の罪)との関係
軽犯罪法は、国民の日常生活における卑近な道徳律に違背する比較的軽微な犯罪とこれに対する刑罰とを規定した刑事実体法です。
本罪に関連する軽犯罪法違反として、
- 軽犯罪法1条18号違反(死体等不申告の罪)
- 軽犯罪法1条19号違反(変死現場等変更の罪)
があります。
① 軽犯罪法1条18号違反(死体等不申告の罪)との関係
軽犯罪法1条18号違反(死体等不申告の罪)は、「自己の占有する場所内に、老幼、不具若しくは傷病のため扶助を必要とする者又は人の死体若しくは死胎のあることを知りながら、速やかにこれを公務員に申し出なかった者」を処罰(拘留又は科料)するものです。
軽犯罪法1条18号にある「死体」に関しては、これらに対する公務員の処分ないしこれらの存在を端緒とする捜査が速やかに行われることを担保する趣旨です。
軽犯罪法1条18号の死体等不申告の罪に当たる行為をした者が、死体を移動させた場合は、死体等不申告の罪と死体遺棄罪の両罪が成立し、両罪は併合罪となります。
② 軽犯罪法1条19号違反(変死現場等変更の罪)との関係
軽犯罪法1条19号違反(変死現場等変更の罪)は、「正当な理由がなくて変死体又は死胎の現場を変えた者」を処罰する規定です。
変死体又は死胎の存在には、その背後に犯罪が予想されることが少なくないので、犯罪捜査の証拠が失われることを防止しようとする趣旨であると解されています。
死体の位置・姿勢を変える行為、着衣の状態を変える行為、死体の付着物をぬぐうなどする行為、死体の周辺にある凶器を拾い上げる行為等がこれに該当します。
軽犯罪法1条19号違反(変死現場等変更の罪)に当たる行為をした者が、死体を移動させた場合は、変死現場等変更の罪と死体遺棄罪の両罪が成立するとされます。
最高裁判決(昭和29年4月15日)が、「軽犯罪法1条19号は、正当の理由がなくて変死体又は死胎の現場を変える行為を取り締まろうとする法意に出たものであって、故意に死体を放棄する行為を処罰の対象とする死体遺棄罪とは罪質を異にしている」と判示している点も参考になります。
② 船員法違反(水葬命令違反の罪)との関係
船員法15条は、「船長は、船舶の航行中船内にある者が死亡したときは、国土交通省令の定めるところにより、これを水葬に付することができる」としています。
国土交通省令に違反して水葬に付したときは処罰されます(船員法126条4号)。
船員法15条に基づく船員法施行規則4条は
- 船舶が公海にあること
- 伝染病による死亡を除き死亡後24時間を経過したこと
- 衛生上死体を船内に保存できないこと
- 医師の乗り込む船舶にあっては医師が死亡診断書を作成したこと
- 伝染病によって死亡したときは、十分な消毒を行ったこと
などのすべての条件を備えなければ水葬に付することができないものとしています。
これは、船舶において死体を保存しがたい場合があることを考慮したものです。
上記の規定に従って水葬に付したときは、正当行為(刑法35条)として死体遺棄罪は成立しませんが、そうでないときは、死体遺棄罪が成立し、それが水葬であれば、船員法違反(水葬命令違反の罪)も成立することとなり、両罪は観念的競合の関係になると解されています。