前回の記事の続きです。
この記事では、刑法190条の罪(死体遺棄罪、死体損壊罪、死体領得罪、遺骨等遺棄罪、遺骨等損壊罪、遺骨等領得罪、棺内蔵置物遺棄罪、棺内蔵置物損壊罪、棺内蔵置物領得罪)を「本罪」といって説明します。
本罪の客体(死体、遺骨、遺髪、棺に納めてある物)
本罪(刑法190条)の客体は、
です(詳しくは前回の記事参照)。
この記事では、「②遺骨」「③遺髪」「④棺に納めてある物」を説明します。
本罪の客体である「遺骨」とは?
本罪の客体である「遺骨」とは、
死者の祭祀・記念のために保存し、又は保存すべき骨骸
をいいます(大審院判決 大正10年3月14日)。
遺族等が風俗・習慣に従って正当に処分したもの、例えば、
・火葬場において遺族が収集した残りの骨片で遺族が放擲したもの
は、本罪の遺骨には該当せず、その領得は遺骨領得罪に当たらないとされます。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(明治43年10月4日)
裁判所は、
- 人の遺骨が刑法第190条の意義においてこれを侵害することを許さざる法益たるがためには死者の祭祀又は記念のためこれを保存し又は保存すべきものたるを要し、死者の遺族その他遺骨を処分するの権限を有する者が風俗慣習に従い正当にこれを処分したるものは、この性質を有せざるをもって、これを領有するも刑法第190条の犯罪を構成することなし
と判示しました。
なお、博物館に陳列された遣骨は祭祀・記念の対象ではないため、本罪の遺骨には含まれません。
本罪の客体である「遺髪」とは?
本罪の客体である「遺髪」とは、
死者の祭祀・記念のために保存し、又は保存すべき人の頭髪
をいいます。
本罪の客体である「棺に納めてある物」とは?
本罪の客体である「棺に納めてある物」とは、
- 祭祀・記念の直接の目的である死体・遺骨・遺髪とともに棺に納められた物
つまり、
をいいます(大審院判決 大正8年3月6日)。
その領得・損壊・遺棄が一般の宗教的感情を害する性質を有するものである必要があり、例えば、
- 死者の愛用品
- 未亡人の毛髪
など、死者に対する崇敬の念を示し、あるいは死者の霊を慰めるために死者とともに保存されるものがこれに当たります。
本罪は、窃盗罪等のような財産罪ではないので、「棺に納めてある物」が窃盗罪等にいう財物性を有する必要はなく、それ自体所有権の対象とされている必要もありません。
「棺」自体は、文理上「棺に納めてある物」とはいえないので、「棺」自体のみを領得しても本罪は成立しません。
ただし、死体等を棺内に納められたまま領得すれば、本罪が成立します。