刑法(死体遺棄罪等)

死体遺棄罪等(4) ~ 本罪の行為①「『損壊』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、刑法190条の罪(死体遺棄罪、死体損壊罪、死体領得罪、遺骨等遺棄罪、遺骨等損壊罪、遺骨等領得罪、棺内蔵置物遺棄罪、棺内蔵置物損壊罪、棺内蔵置物領得罪)を「本罪」といって説明します。

本罪の行為である「損壊」とは?

 本罪(刑法190条)の行為の態様は、

です。

 この記事では、「損壊」について説明します。

 本罪の行為である「損壊」とは、

物理的に損傷、破壊すること

をいいます。

 具体的には、

  • 殺害後に運搬あるいは隠匿の便宜等のため死体を切断する行為(大審院判決 昭和8年7月8日)
  • 殺害した死体を家屋とともに焼損する行為(大審院判決 大正12年8月21日)
  • 万病薬として売却するため墳墓から発掘した嬰児の死体を黒焼にして粉末にする行為(秋田地裁大館支部判決 昭和31年12月26日)

がこれに当たります。

 なお、

なども死体の損壊行為ですが、これらの法令に基づくものである限り、正当行為刑法35条)として違法性が阻却され、本罪は成立しません。

 法の明文に基づかない場合は、刑法35条等の一般原則の適用いかんの問題となり、その行われた具体的状況を踏まえ、医療的見地及び社会的見地の双方から相当と認められる場合等に限って違法性が阻却されます。

裁判例

 死体損壊罪の成否が争われた裁判例として、以下のものがあります。

名古屋地裁岡崎支部判決(平成23年3月24日)

 被告人である母親が出産した嬰児を自宅ベランダに設置されたゴミ箱に入れ、数か月にわたり常温下に放置して腐敗させた事案につき、死体をゴミ箱に入れた点で遺棄罪刑法217条)は成立するが、遣棄された死体が腐敗するのは時間の経過にともなって通常あり得ることであり、遺棄行為に包含されるから、遣棄のほかに死体損壊罪が成立するものではないとしました。

最高裁判決(昭和23年11月16日)

 強姦未遂(現行法:不同意性交等未遂)の際、窒息死させた後に姦淫した事案につき、屍姦(死体に対する姦淫)も、死体を物理的に損壊・破壊するものではないから、本罪にいう損壊には当たらないとしました。

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