刑法(特別公務員職権濫用罪)

特別公務員職権濫用罪(2)~「本罪の主体(犯人)」を説明

 前回の記事の続きです。

特別公務員職権濫用罪の主体(犯人)

 特別公務員職権濫用罪(刑法194条)の主体(犯人)は、

裁判、検察、警察の職務を行う者及びこれらの補助者

です。

 具体的には、

  • 裁判官
  • 裁判所書記官
  • 家庭裁判所調査官
  • 検察官
  • 検察事務官
  • 司法警察職員

が該当します。

 本罪の主体は、原則として公務員ですが、文理上、必ずしも、公務員の身分を有する者に限られません。

 例えば、司法警察員の資格が認められているである船長(特別司法警察員)は、公務員ではありませんが、本罪の主体になり得ます。

 以下でさらに詳しく説明します。

「裁判の職務を行う者」とは?

 「裁判の職務を行う者」は、裁判官をいいます。

 刑事を担当する裁判官か民事を担当する裁判官かを問いません。

 刑事か民事かは、単に裁判所の内部の職務の分担にすぎず、裁判官の権限に質的な差はないためです。

 家庭裁判所の裁判官も、人を勾引し、あるいは、観護措置により、自由を拘束する権限を与えられているので含まれます。

 裁判員は、裁判官とともに裁判の職務を行うが、身体拘束に関する権限はないので、特別公務員職権濫用罪の主体とはなりません。

「裁判の職務を補助する者」とは?

 「裁判の職務を補助する者」は、

をいいます。

 裁判所書記官は、勾引状によって引致された身柄を裁判所内で確保することについて関与するので、「裁判の職務を補助する者」に当たります。

 家庭裁判所調査官については、少年法13条により、同行状の執行権限が認められていることから、「裁判の職務を補助する者」に当たります。

※ 同行状とは? … 家庭裁判所が少年や保護者を呼び出す際に、正当な理由なく呼び出しに応じない場合や、応じないおそれがある場合に、強制的に同行させるための裁判所の命令状

「検察の職務を行う者」とは?

 「検察の職務を行う者」とは、

  • 検察官
  • 検察事務官

をいいます。

 付審判事件においては、検察官の職務を行う者(裁判所が指定した弁護士)もこれに含まれると解されています。

 検察事務官については、「検察の職務を補助する者」とも理解できますが、検察事務官は、検察庁法上、検察官の補助者と定められているものの、刑訴法上、検察官の指揮により、自ら捜査を行い、あるいは逮捕状又は勾留状等の執行をすることができることとされていることに鑑みれば、「検察の職務を行う者」に該当すると考えることが妥当とされます。

 なお、検察庁法36条に基づき検察官の事務を取り扱う検察事務官(検察官事務取扱検察事務官)も、検察官の事務を行っている限度において「検察の職務を行う者」に該当します。

「検察の職務を補助する者」とは?

 検察の職務を補助する者とは、検察事務官が考えられますが、検察事務官は検察官の指揮があることは条件にしても、人の自由を拘束する権限があることから、上記のとおり「検察の職務を行う者」に該当します。

 よって、「検察の職務を補助する者」は、検察官が自ら逮捕する場合においてこれを補助するようなときにおけるその補助者が該当すると考えられています。

「警察の職務を行う者」とは?

1⃣ 「警察の職務を行う者」とは、司法警察職員をいい、一般司法警察職員(警察官)のほか、特別司法警察職員も含まれます。

 特別司法警察職員は、海上保安官、麻薬取締官、漁業監督官等が該当します(詳しくは捜査機関とは?の記事参照)。

2⃣ また、行政警察事務を行っている者であっても、本罪の主体たり得ると解されています。

 行政警察事務を行っている者とは、警察組織において、会計、人事、施設管理など、警察官が職務を遂行するために必要な事務全般を行っている者です。

3⃣ 法律上、人を逮捕、監禁する権限を与えられていない者については、司法警察員又は実質的な内容として警察の職務を行うものであっても、その職権を濫用することは考えられないので、本罪の主体とはならないと解されています。

 法律上、犯罪捜査のための逮捕権限を与えられている者(例えば、司法警察員の資格が認められている船長)については、公務員でなくとも、警察の職務を行う者に該当します。

 警察活動自体又は犯罪捜査に従事しない警察の事務員は、「警察の職務を行う者」に該当しません。

4⃣ 私人が現行犯逮捕した場合(刑訴法213条)、この私人は、事実上において検察・警察の職務を行う者を補助するに過ぎず、法令に基づいて検察・警察の職務を行う者の補助者となるわけではないので、本罪の主体にはなりません。

「警察の職務を補助する者」とは?

 「警察の職務を補助する者」も「検察の職務を補助する者」と同様に具体的な対象が考えにくいとされます。

 例外的に、何らかの特別な事情があって、被逮捕者の看守などを依頼され、これを法律上の任務として行う私人などが考え得るとされます。

裁判・検察・警察以外の「人を拘束する権限のある者」は本罪の主体にはならない

 人を拘束する権限が認められている者として、

  • 刑事施設(刑務所)の職員
  • 出入国管理のため退去強制手続を行う法務省職員
  • 児童相談所の職員
  • 児童自立支援施設の職員
  • 精神障害者の措置入院を行う都道府県知事

が該当します。

 これらの者は、人を拘束する権限が認められていますが、本罪にいう警察の職務を行う者には該当せず、本罪の主体にはなりません。

 もっとも、刑事施設の職員については、一部、司法警察員としての職務を行うことが認められており、 これらの職員が司法警察員としての職務を行う場合には、本罪の主体となり得えます。

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