刑法(特別公務員暴行陵虐罪)

特別公務員暴行陵虐罪(5)~「特別公務員暴行陵虐罪における『陵辱』『加虐』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

特別公務員暴行陵虐罪における「陵辱」「加虐」とは?

 特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)における「陵辱」とは、

精神的に苦痛を与える行為

をいいます。

 「加虐」とは、

身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的苦痛を与える行為

をいいます。

 「陵辱」「加虐」は必ずしも限界が明瞭ではなく、一括して、精神的・肉体的に苦痛を与える行為と考えれば足りるとされます。

 「陵辱」「加虐」に該当する行為として、

  • 睡眠を与えない
  • 用便に行かせない
  • 飲食をさせない

といった行為が挙げられます。

 また、

  • 著しく人格を傷つけるような言動
  • 女性に対して著しくわいせつな言動に出るようなこと

も「陵辱」「加虐」に含まれると解されています。

 陵虐の意義について判示した裁判例があります。

東京高裁判決(平成15年1月29日)

 被拘禁者を姦淫したとする事案です。

 裁判所は、

  • 本罪にいう「陵辱若しくは加虐の行為」の意味は、公務の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという本罪の趣旨に照らして解釈されるべきである
  • このような前提で検討すると、本罪の主体である「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者」(以下「看守者等」という)は、被拘禁者を実力的に支配する関係に立つものであって、その職務の性質上、被拘禁者に対し て職務違反行為がなされるおそれがあることから、本罪は、このような看守者等の公務執行の適正を保持するため、看守者等が、一般的、類型的にみて、前記のような関係にある被拘禁者に対し、精神的又は肉体的苦痛を与えると考えられる行為(看守者等が被拘禁者を姦淫する行為[性交]がこれに含まれることは明らかである)に及んだ場合を処罰する趣旨であって、現実にその相手方が承諾したか否か、精神的又は肉体的苦痛を被ったか否かを問わないものと解するのが相当である

と判示しました。

暴行・陵虐の行為は、職務の執行に際してなされなければならない

 暴行・陵虐の行為は、職務の執行に際してなされなければなりません。

 したがって、職務の執行と関係なく、私怨を晴らすために行われたような行為は、特別公務員暴行陵虐罪に該当しないこととなります。

 もっとも、職務行為の形を採って行われた場合や職務の執行に付随して行われた場合は、特別公務員暴行陵虐罪に該当します。

単なる脅迫は、特別公務員暴行陵虐罪に該当しない

 単なる脅迫は、特別公務員暴行陵虐罪に該当しません。

 取調べにおいて、不法な脅迫と正当な追及との差が微妙なところが多いので、脅迫が除かれているものですが、それが陵虐行為に当たれば本罪に該当します。

 また、脅迫に該当するときは、脅迫罪刑法222条)による処罰を妨げるものではありません。

次の記事へ

公務員職権濫用罪、特別公務員暴行陵虐罪等の記事一覧