前回の記事の続きです。
特別公務員職権濫用致死傷罪、特別公務員暴行陵虐致死傷罪とは?
特別公務員職権濫用致死傷罪、特別公務員暴行陵虐致死傷罪は、刑法196条において、
前2条(刑法194条:特別公務員職権濫用罪、刑法195条:特別公務員暴行陵虐罪)の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する
と規定されます。
特別公務員職権濫用致死傷罪、特別公務員暴行陵虐致死傷罪(刑法196条)は、
の結果的加重犯です。
そして、刑法196条は、特別公務員職権濫用罪(刑法194条)又は特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)を犯した結果、人を死傷に至らしめた場合には、より重い刑で処断することを定めたものです。
なお、一般の職権濫用罪である公務員職権濫用罪(刑法193条)については、致傷を付加する刑法196条の適用はありません。
これは、
- 公務員職権濫用罪は、強要罪と性質が近いものがあり、強要罪には致傷の罪がないこと
- 公務員職権濫用罪においては、行為の性質上、死傷の結果に至ることが稀であると思われること
が理由であると考えられています。
罪名
特別公務員職権濫用罪(刑法194条)を犯し、
- 相手に傷害を負わせた場合は、「特別公務員職権濫用致傷罪」
- 相手を死亡させた場合は、「特別公務員職権濫用致死罪」
となります。
特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)を犯し、
- 相手に傷害を負わせた場合は、「特別公務員暴行陵虐致傷罪」
- 相手を死亡させた場合は、「特別公務員暴行陵虐致死罪」
となります。
法定刑の考え方
「重い刑により処断する」とは、上限及び下限ともに、特別公務員職権濫用罪の法定刑(6月以上10年以下の拘禁刑)又は特別公務員暴行陵虐罪(7年以下の拘禁刑)の法定刑と、
- 傷害罪の法定刑(刑法204条、法定刑:15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)
又は
- 傷害致死罪の法定刑(刑法205条、法定刑:3年以上の有期拘禁刑)
とを比較して、重い方で処断するという趣旨です(通説)。
傷害にとどまるときは傷害罪の法定刑と、傷害致死に至ったときは傷害致死罪の法定刑と比較されることになります。
判例
特別公務員暴行陵虐致死罪の成立を認めた以下の判例があります。
果物ナイフを所持していたAが、Aを銃砲刀剣類所持等取締法違等の犯人として現行犯逮捕しようとした警察官Bに対して、同ナイフを捨てずに付近にあった木の棒を振り回すようにして反抗するなどしたため、警察官Bから拳銃で発砲されて死亡した事案で、警察官による拳銃の発砲が違法とされた事例です。
裁判所は、
- 警察官である被告人の銃砲刀剣類所持等取締法違反及び公務執行妨害の犯人に対する2回にわたる発砲行為は、右犯人を逮捕し、自己を防護するために行われたものではあるが、犯人の所持していたナイフが比較的小型である上、犯人の抵抗の態様も一貫して被告人の接近を阻もうとするにとどまり、被告人が接近しない限りは積極的加害行為に出たり、付近住民に危害を加えるなど他の犯罪行為に出ることをうかがわせるような客観的状況が全くなかったと認められるなど判示の事実関係の下においては、警察官職務執行法7条に定める「必要であると認める相当な理由のある場合」に当たらず、かつ、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」を逸脱したものであって、違法である
と判示し、特別公務員暴行陵虐致死罪の成立を認めました。
殺意があるときの特別公務員職権濫用致死罪、特別公務員暴行陵虐致死罪の成否の考え方
殺意があるときの特別公務員職権濫用致死罪、特別公務員暴行陵虐致死罪の成否の考え方については、
- 特別公務員暴行陵虐致死罪は成立せず、単に殺人罪の成立を認める見解
- 特別公務員暴行陵虐致死罪と殺人罪の観念的競合を認める見解(奈良地裁判決 平成24年2月28日)
- 「特別公務員職権濫用罪 又は 特別公務員暴行陵虐罪」と「殺人罪」との観点的競合を認める見解
があります。