前回の記事の続きです。
「請託を受け」とは?
受託収賄罪は、刑法197条1項後段において、
- 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の拘禁刑に処する。
と規定します。
今回の記事では、条文中の「請託を受け」の意義を説明します。
1⃣ 「請託を受け」とは、
- 公務員が一定の職務行為を行うこと(つまり、請託)の依頼を受けて承諾をすること
をいい、依頼に対する承諾を含むと解されています。
この点に関する以下の判例があります。
第三者供賄罪(刑法197条の2)の事案ですが、裁判所は、
- 公務員がその職務に関する事項につき依頼を受けこれを承諾したことを必要…
と判示しました。
2⃣ ここにいう「承諾」は明示の承諾である必要はなく、黙示の承諾で足ります(請託について明示の必要はなく、黙示でも足ります)。
この点に関する以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 請託は必ずしも賄賂供与の事前に明示的になされることを必要とするものではなく、賄賂を供与すること自体により黙示的にその依頼の趣旨を表示するのも請託にほかならないのであり、その際依頼の趣旨を了承して賄賂を収受すれば、あらかじめ明示の依頼を受けこれを承諾してしかる後賄賂を収受した場合とその処罰価値においてなんら選ぶところがないから、やはり請託を受けて賄賂を収受したものに該当する
と判示しました。
3⃣ 請託を受けたものの、 これを承諾することなく賄賂のみ収受した場合には、単純収賄罪のみ成立することになります。
請託を受けることを明確に拒否すれば、請託を受けたことにはなりません。
4⃣ 収賄者である公務員が自ら要求し、職務を具体的に明らかにして賄賂を収受した場合でも、収賄者と贈賄者との間に合意がある限り、請託を受けたことになります。
賄賂が請託に対する対価であることの認識を要する
受託収賄罪が成立するには、請託を受けて、これを承諾するについて、
- 賄賂が請託に対する対価であることの認識
が必要です。
賄賂が請託に対する対価であることの認識は、賄賂を収受、要求、約束した時点において存在すれば足り、請託の時、職務執行の時にあることを要しません。
この点を判示した以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和61年5月14日)
裁判所は、
- 弁護人らは、刑法197条1項後段の受託収賄罪が成立するためには、公務員において賄賂に対する対価として何らかの職務執行をする意思(対価意思)の存在が必要であるところ、本件では職務執行のときに右の対価意思が存在しないから、受託収賄罪は成立しないとも主張するけれども、受託収賄罪が成立するには賄賂を収受するときにそれが請託に対する対価であることの認識があれば足りるのであって、請託を受けた時点あるいは請託に応じた職務執行をする時点で弁護人主張のような対価意思の存在が必要であるとはせられないから(最高裁判所昭和27年7月22日第三小法廷判決・刑集6巻7号927頁参照)、右主張も採用できない
と判示しました。
公務員に就任する前に請託を受け、就任後に、申込み・約束・収受があった場合でも受託収賄罪が成立する
公務員に就任する前に請託を受け、就任後に、申込み・約束・収受があった場合でも受託収賄罪が成立します。
請託を前提として賄賂の収受等の行為がある以上、賄賂と公務との対価関係は、公務員等に就任する前の時点で明確になるのであるから、公務員に就任する前に請託を受け、就任後に、申込み・約束・収受があった場合でも受託収賄罪が成立すると解すべきとされます。
この点に関する以下の判例があります。
裁判所は、
- 市長が、任期満了の前に、現に市長としての一般的職務権限に属する事項に関し、再選された場合に担当すべき具体的職務の執行につき請託を受けて賄賂を収受したときは、受託収賄罪が成立すると解すべきである
と判示しました。