刑法(贈収賄罪)

単純収賄罪(12)~職務とは?②「公務員が転職した後に転職前の職務において収賄罪を行った場合に『職務』に該当するか否か?」を説明

 前回の記事の続きです

公務員が転職した後に転職前の職務において収賄罪を行った場合に「職務」に該当するか否か?

 公務員が転職した後に転職前の職務に関して金品を収受した場合に、これが当該公務員の職務に関するということができるかについて、判例は、「職務」に該当すると積極な判断をして傾向にあります。

大審院判決(大正11年4月1日)

 土木技手が転勤により担当管区が異なった後も、前担当管区内の土木業者から金品を収受していた事案です。

 裁判所は、

  • 一県の県道工事監督の職務は、県内の各土木管区に普及するものにして、管区の異なるにより職務に変更を生ずるものに非らざるが故に、被告が一の関土木管区より花巻土木管区に転勤したれとて、その県道工事監督の職務は依然存続することもちろんなれば

として賄賂罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和28年4月25日)

 収受の1週間後に他の税務署に転勤した場合について収賄罪の成立を認めた事例です。

 裁判所は、

  • 収受の当時において公務員である以上は収賄罪はそこに成立し、賄賂に関する職務を現に担任することは収賄罪の要件でないと解するを相当とする
  • 供与の当時において公務員である以上は贈賄罪はそこに成立し、公務員が賄賂に関する職務を現に担任することは贈賄罪の要件でないと解するを相当とする
  • この点に関し原審が転任によってその一般的職務に異同を生ずるものではないと説示したのは現在の職務関係に拘泥するものであって措辞適切を欠くものがある

と判示し、公務員の転職後、前の職務に関する収賄罪の成立を認めるに当たり、転職前後の職務の異同を問うものではないとする一般的な解釈を示した上、収賄罪の成立を認めました。

高裁判決(昭和28年5月1日)

 この判例は、上記収賄罪の判例に対する贈賄側の判例です。

 裁判所は、

  • 贈賄罪は公務員に対してその職務に関し賄賂を供与するによって成立し、公務員が他の職務に転じた後、前の職務に関して賄賂を供与する場合であっても、いやしくも供与の当時において公務員である以上は贈賄罪はそこに成立し、公務員が賄賂に関する職務を現に担任することは贈賄罪の要件でないと解するを相当とする

と判示し、贈賄罪(刑法198条)の成立を認めました。

最高裁決定(昭和58年3月25日)

 建築に関係する事務を担当していた地方公務員がみなし公務員である住宅供給公社の職員に出向した事例です。

 裁判所は、

  • 公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、右供与の当時受供与者が公務員である以上賄賂罪が成立する

と判示し、収賄罪の成立を認めました。

次の記事へ

贈収賄罪の記事一覧