刑法(贈収賄罪)

単純収賄罪(14)~職務とは?④「公務員の本来的な職務に属さない職務でも『職務密接関連行為』であれば『職務』と認められる場合がある」を説明

 前回の記事の続きです。

公務員の本来的な職務に属さない職務でも「職務密接関連行為」であれば「職務」と認められる場合がある

1⃣ 公務員の本来的な職務に属さない職務であっても、これを「職務密接関連行為」として単純収賄罪の成立が認められる場合があります。

 収賄罪にいう「職務密接関連行為」とは、

  • 本来の職務行為以外の行為であって職務との関わりがあるために公務員により行われるもので、その性質上重要性、公共性が認められるもの、又は本来の職務行為ではないが本来の職務の公正さを確保する観点から公正さが要求されるもの

ということができるとされます。

 この点に関し、福岡高裁判決(昭和50年8月26日)は、

  • 公務員の具体的な行為が右職務に密接な関係のある行為であるか否かは、贈収賄罪の立法趣旨等に照らし、その行為が本来の職務に準じた公務的性格を有し、その公正が期待されると共にこれに対する社会的信頼が存在するものであるか否かを基準として決定すべきである

と判示しています。

2⃣ 「職務密接関連行為」に該当するかどうかの判断の要素として、

  • 事実上公務の一部として行っていること
  • 金品の授受があると職務の公正が疑われること

が挙げられます。

「職務密接関連行為」に該当するとして収賄罪が認められた判例・裁判例

 「職務密接関連行為」に該当するとして収賄罪が認められた判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和25年2月28日)

 公務員の職務執行と密接な関係にある行為に対する金品の収受について単純収賄罪の成立を認めた事例です。

 裁判所は、

  • 論旨(※弁護人の主張)は、被告人が判示の如く板ガラス割当証明書が多く判示Aの店にまわるように仕向けたことは、被告人が戦災復興院B出張所雇として実際担当していた職務とは何ら関係なく、従って被告人が判示Aから判示のような供応を受けたとしてもその職務に関し賄賂を収受したことにはならないと主張する
  • なるほど判示板ガラス割当証明書を所持している者がある特定の店舗から板ガラスを買受けるように仕向けることは厳密にいえばその職務の範囲に属するものとはいい得ないであらう
  • しかし被告人が権限に属する職務執行に当たり、その職務執行と密接な関係を有する行為をなすことにより相手方より金品を収受すれば賄賂罪の成立をさまたげるものではない
  • 従って論旨は理由がない

と判示し、単純収賄罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和59年5月30日)

 公表等の権限を持たない審議会の委員が関係者に情報を漏らした事案について、漏示行為を職務密接関連行為と認めた事例です。

 裁判所は、

  • 大学設置審議会及びその歯学専門委員会の委員である被告人が、歯科大学設置の認可申請をしていた関係者らに対し、教員予定者の適否を右委員会の審査基準に従ってあらかじめ判定してやり、あるいは同委員会の中間的審査結果をその正式通知前に知らせた行為は、右審議会及び委員会の委員としての職務に密接な関係のある行為として収賄罪にいわゆる職務行為にあたる

と判示しました。

最高裁決定(昭和33年3月13日)

 裁判所は、

  • 京都市中央市民病院の薬剤科部長として薬剤の調剤、製剤、検査、保管、整理等の事務を担任している者が、同病院の薬品の購入につき要求伝票を作成することは、その本来の職務と密接な関係にある行為に属し、薬品の購入に対する謝礼として薬品会社の社員より財物を収受し、饗応を受ける所為は収賄罪を構成する

と判示しました。

最高裁判決(昭和34年12月3日)

 最高裁判決

  • 被告人は愛知県農地部耕地課管理係長として、耕地課長の指導監督の下に同県下における耕地整理組合の事務指導、土地改良区の認定認可ならびに監督整理事業の指導監督、農林漁業資金融資などに関する職務を担当していた
  • そして同人は本件土地改良区の施行する区画整理事業に要するトロッコレールの払下につき種々世話になつたことの謝礼の趣旨の下に供与されるものであることの情を知りながら商品券を収受したというのである
  • しからば右トロッコレールの払下につき種々世話をした被告人の行為は、所論のように、区画整理事業所要の資材に関する事項が同人の本来の職務と密接な関係のある行為というべく、その謝礼として金品を収受した以上、収賄罪の成立は免れない

と判示しました。

最高裁決定(昭和35年3月2日)

 裁判所は、

  • ある町において、町長が比較的大規模の工事を施行するにあたっては、町会議長のほか分掌事項上関連ある議員として厚生委員会の委員長、各委員などをもって協議会を組織し、入札業者の指名、入札方法の選定、敷金額の決定等につき意見を求め、また厚生委員が町長の選任により右工事の監督にあたる等の慣例が存する場合において、右協議会で敷金額につき意見を述べること並びに右工事の監督に従事することは、町議会議員でかつ厚生委員としての職務行為そのものではないが、右職務に由来しこれと密接な関係を有する行為であるから、町議会議員でありかつ厚生委員である被告人らがかかる行為の対価として金員を収受すれば賄賂罪が成立する

と判示しました。

最高裁判決(昭和30年7月20日)

 職務と関係のある事項についてのあっせん行為を職務密接関連行為とした事例です。

 裁判所は、

  • 被告人は特別都市計画法に基く広島市東部地区土地区劃整理委員会の委員として、換地に関する事項その他同法所定の土地区劃整理について工事施行者である広島市長の諮問に対し審議答申する職務を担当しているものであるが、判示の各日時に判示各場所において、A外一名から同人等の各土地の換地等について斡旋等をしたことに対する謝礼の趣旨として判示各金品を収受したというのであり、右判示事実は同判決挙示の証拠によって十分肯認することができるから、被告人はその職務執行と密接な関係を有する行為をなすことにより金品を収受したことが認められる

と判示し、単純収賄罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和60年6月11日)

 市議会議員の会派内における議長候補者選出行為が市議会議員の職務に密接な関係のある行為に当たるとされた事例です。

 裁判所は、

  • 市議会議員が、現職議員によって構成される会派内において、市議会議長選挙に関し、所属議員の投票を拘束する趣旨で、投票すべき候補者を選出する行為は、市議会議員の職務に密接な関係のある行為として収賄罪にいわゆる職務行為に当たる

と判示し、受託収賄罪(刑法197条1項後段)が成立するとしました。

最高裁判決(昭和63年4月11日)

 法律案の審議に関し、法律案が付託されていない委員会の委員たる議員が法律案を審議している委員会の委員に働きかけ、金員を供与した行為について贈賄罪(刑法198条)の成立を認めた事例です。

 裁判所は、

  • 衆議院議員に対し、同院大蔵委員会で審査中の法律案につき、関係業者の利益のため廃案、修正になるよう、同院における審議、表決に当たって自らその旨の意思を表明すること及び同委員会委員を含む他の議員に対してその旨説得勧誘することを請託して金員を供与したときは、当該議員が同委員会委員でなくても、贈賄罪が成立する

と判示しました。

最高裁決定(平成18年1月23日)

 裁判所は、

  • 県立医科大学教授兼同大学附属病院診療科部長が、自己が長を務める医局に属する医師を医局と一定の関係を有する外部の病院へ派遣する行為は、これらの医師を教育指導するというその職務に密接な関係があり、賄賂罪における職務関連性が認められる

と判示しました。

最高裁決定(平成22年9月7日)

 裁判所は、

  • 北海道開発庁長官が、下部組織である北海道開発局の港湾部長に対し、競争入札が予定される港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように働き掛ける行為は、同長官に港湾工事の実施に関する指揮監督権限がなく、また、その行為が談合にかかわる違法なものであるとしても、港湾工事に係る予算の実施計画作製という同長官の職務に密接な関係があり、賄賂罪における職務関連性が認められるとして、賄賂罪における職務関連性が認めれる

としました。

 下級審で職務密接関連行為に該当するとして収賄罪が認めれた行為として、以下のものがあります。

  1. 道路等の建設、維持等を担当する区の土木課長が道路舗装工事と同時に施行されるガス管埋設工事の斡施をすること(東京高裁判決 昭和37年12月19日)
  2. 国立芸術大学の教授が学生にバイオリンの選定について助言・指導すること(東京地裁判決 昭和60年4月8日)
  3. 国会議員の国政調査権に基づく質問に関し、行政官庁及び他の委員に働きかけること(東京地裁判決 平成元年11月6日)
  4. 町議会議員が協議会で意見を述べ、あるいはその発言内容に関して他の議員に働きかけること(東京地裁判決 平成9年12月22日)
  5. 国立大学医学部教授が新薬開発に関する学外での企業の経済活動に結びついた指導助言を行うこと(名古屋地裁判決 平成11年3月31日)
  6. 農林水産省畜産局畜政課課長補佐、農産園芸局総務課調査官等による同省の事業についての情報提供等を行うこと(東京地裁判決 平成13年5月21日)
  7. 市が施行する都市計画道路整備事業等の事業用地の取得、その土地上にある物件の移転等に関する職務に従事していた場合に、事業等による取得対象となった土地の立ち退き予定者に土地上の建物等の解体工事を行う業者を紹介すること(静岡地裁浜松支部判決平成24年7月13日)
  8. 労働局労働基準部健康課所属の地方労働衛生官が同部安全課所属の地方産業安全官に同人の所管する移動式クレーン製造許可について速やかに許可が下りるよう働き掛けた行為(福岡地裁小倉支部判決 平成30年10月4日)

「職務密接関連行為」に該当しないとされた判例・裁判例

 「職務密接関連行為」に該当しないとされた判例・裁判例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和32年3月28日)

 農林大臣が、復興金融公庫から融資を受けようとしている業者の依頼を受け、融資の申請書に添付する副申書を作成する権限のある食料事務所長あてに紹介の名刺を交付した行為について、職務に密接な関係のある行為とは認められないとした単純収賄罪の成立を否定した事例です。

 裁判所は、

  • 刑法第197条にいう「その職務に関し」とは、当該公務員の職務執行行為ばかりでなく、これと密接な関係のある行為に関する場合をも含むものと解するのが相当である
  • 農林大臣が、復興金融金庫から融資を受けようと考えている業者(製粉株式会社の社長H)に対し、右融資斡旋の申請書に添付すべき副申書を作成すべき権限ある食糧事務所長宛に「H君を紹介申上候よろしく願上候」と記載しサインした農林大臣名義の紹介名刺一枚を交付し、また復興金融金庫融資部長を紹介するが如き行為は、農林大臣の職務執行行為またはこれと密接な関係がある行為ということはできない
  • 被告人本来の職務行為ではなくまた、その職務に密接な関係のある行為とも認められない以上、被告人の本件収賄罪は成立しないものといわなければならない

と判示し、無罪を言い渡しました。

 この事案について、職務密接関連行為性が否定されたのは、名刺の交付にいたる経緯からして、政治家としての活動に属する行為であって、大臣としての監督権の行使と認め難い事情があったことによるものと考えられています。

最高裁判決(昭和34年5月26日)

 既設電話の移転工事の処理等の事務を担当していた者が、既設電話の売買のあっせんをする行為が職務に密接な関係のある行為とは認められないとした事例です。

 裁判所は、

  • 刑法第197条にいう公務員の「職務に関し」とは、公務員の職務行為ばかりでなく、これと密接な関係にある行為に関する場合を含むものと解すべきであるが、単にこれと関連性のある行為に関する場合をも含むものと解すべきではない
  • 既設電話の移転工事等の処理、工事指令、現地調査等の権限を有する電報電話局施設課線路係長たる電気通信技官が電話売買の斡旋をすることは、その職務行為と関連性のある行為ではあっても、これと密接な関係ある行為とはいえない

と判示し、贈賄罪(刑法198条)の成立を否定しました。

 この判例の事案は、電話の売買をすることがその職務に対して特段の影響を与える事項ではなかった点がが職務性が否定された事情の一つなっていると考えられています。

最高裁判決(昭和51年2月19日)

 工場誘致に関する事務を担当していた地方公共団体の職員が、工場用地の購入方の申込みがあったので、その属する公共団体の開発した工場団地に案内したが、適地がなかったことから、かねて他の者から売却処分方を依頼されていた土地に案内し、その買入れ方のあっせんをしたことが職務密接関連行為に当たらないとされ、贈賄罪の成立が否定された事例です。

 裁判所は、

  • 工場誘致に関する事務を担当していたA県及びB市の職員が、B市内に工場用地を買いたい旨申し込んだ者を、B市において開発し工場誘致を図っていた工場団地に案内したが、希望にそう土地がなかつたことから、かねて被告人らから売却処分方を依頼されていた土地に案内しこれを買い入れるようあっせんした場合において、被告人が、右あっせん行為に対する謝礼として、前記職員に対し現金を供与しても、贈賄罪は成立しない

と判示しました。

 この工場用地の買入れあっせんの事案は、工場団地に案内して適地がなかったことから、以後の行為は、職務と切り離されて、私的に依頼されたあっせん行為と認められるものであったことが職務性が否定された事情の一つであると考えられています。

2⃣ 「職務密接関連行為」に該当しないとされた事例は、 外形的に職務に関連する行為といえるかどうかはもちろんとして、それのみならず、行為が行われた事情を総合して公務性を有する行為か私的行為かを判断しているということができるとされます。

 私的行為と判断される場合、収賄・贈賄を行う者において、賄賂性の認識(「不法な対価」としての認識)に欠けることになり、その場合、故意がないため、収賄罪・贈賄罪の成立が否定されることとなります。

次の記事へ

贈収賄罪の記事一覧