前回の記事の続きです。
行政指導が『職務』に該当するか否か?
単純収賄罪(刑法197条)における行政指導の職務性を説明します。
行政指導は、
- 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないもの
をいいます(行政手続法2条6号)。
行政指導は、従来、法文上の明示的な根拠がなく、行政の円滑な実施を図るため、事実上行われていたものですが、平成5年に制定された行政手続法は上記のような定義をした上で、行政指導の一般原則、方式等について詳細な規定をおきました。
したがって、単純収賄罪における行政指導の職務性は、
- それが特定の行政機関の任務又は所掌事務の範囲内にあり、かつ、行政指導を必要とする行政目的があり得るかどうか
によって判断すればよいこととなります。
判例は、従来、行政指導を職務密接関連行為の問題として処理していました。
参考になる判例として、行政指導行為を職務密接関連行為と認めた最高裁決定(昭和39年3月5日)があります。
この判例は、県防疫課員が市町村の行う簡易水道事業の工事請負について、「請負業者を紹介または推薦する行為は、行政指導行為として職務行為と密接な関係のある行為である」と認めた原審の判断を相当であるとしました。
その後、最高裁は、最高裁判決(平成7年2月22日)において、民間航空の航空機導入に関する行政指導が運輪大臣の職務権限に基づく職務行為であるとし、行政指導を職務行為として認めるに至りました。
このほか、行政指導を職務行為として認めた事例として、
- 就職情報誌の法規制に関しての行政指導について労働省係官の職務権限を認めたリクルート事件(最高裁決定 平成14年10月22日)
- 北海道東北開発公庫に対し、行政指導として特定企業への融資の紹介・あっせんを行うことが北海道開発庁長官の職務権限に属するとされたいわゆる共和汚職事件(最高裁決定 平成12年3月22日)
があります。