刑法(贈収賄罪)

事前加重収賄罪(2)~「事前加重収賄罪の行為」を説明

 前回の記事の続きです。

事前加重収賄罪の行為

 事前加重収賄罪(刑法197条の3第1項)の行為は、

単純収賄罪受託収賄罪事前収賄罪刑法197条)、第三者供賄罪刑法197条の2) のいずれかを犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしないこと

です。

「よって」とは?

 ここにいう「よって」とは、結果的加重犯の趣旨ではなく、

  • 単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪(刑法197条)、第三者供賄罪(刑法197条の2)の罪を犯し、その結果として

という趣旨です。

 つまり、

  • 収賄と不正行為等との間に因果関係を要する趣旨

であり、

  • 収賄が原因で、その結果として、不正行為をするなどしたこと

を意味します。

 単純収賄罪以外の収賄は、請託(公務員に対して、一定の職務行為を行うよう依頼すること)があるので、両者の因果関係が明確です。

 しかし、単純収賄罪の場合には、贈賄の趣旨を収賄者が承知の上で、そのために不正行為等をしたことが必要となり、原因・結果について、客観的な相当な因果関係を要することになると考えられています。

「不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったとき」とは?

1⃣ 「不正な行為をし又は相当の行為をしなかったとき」とは、

積極的行為(作為)又は消極的行為(不作為)によって、その職務に違反する一切の場合

をいいます。

 その作為・不作為により、直ちに事前加重収賄罪が成立します。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正6年10月23日)

 裁判所は、

  • 不正の行為を為し、又は相当の行為を為さざるときとは、積極的若しくは消極的によりその職務に違反する一切の行為を指称し、単に外部に対する職務上の処分行為のみをいうものに非ず

と判示しました。

2⃣ この作為・不作為の結果、公務所に対して現実の損害を与えることは不要です。

 この点に関する以下の判例がありあす。

大審院判決(昭和2年5月4日)

 裁判所は、

  • 市吏員がその職務に関して賄賂を収受し、よってその職務に違反する行為を為したるときは、これがために市に財産上の損害を加えたる事実なしとするも刑法第197条第1項後段(※現行法:刑法197条の3第1項)の犯罪を構成す

と判示しました。

3⃣ 不正な行為が違法とまでされる必要はありません。

 裁量行為が、法規の枠を超えれば明らかに「不正な行為」に該当しまうが、法規の枠を超えない場合でも、

賄賂との対価関係で裁量権を不当に行使している

と見られる限り、不正の行為をし又は相当の行為をしなかったといえます。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁決定(昭和29年9月24日)

 被疑者の要望により、警察官が賄賂を収受して、証拠品の押収を取りやめた事例につき、もともと押収すべきでなかったとすれば押収は誤りであるから単純収賄にとどまるとする上告趣意に対して、裁判所は、

  • 犯罪捜査にあたる巡査が、とくに被疑者の要望を容れて証拠品の押収を取止めた、本件の如き場合は、刑法197条の3にいわゆる「相当の行為を為さざるとき」に該当する

と判示し、不正な行為が違法とまでされる必要ないとする見解を示しました。

4⃣  賄賂を収受して「不正な行為をした」の例として以下のものがあります。

  1. 入札担当の公務員がひそかに特定の業者に、他の業者の入札価格を教えてその特定の業者に入札させようとする行為(大審院判決 大正3年12月14日)
  2. 鉄道院書記で木材の購入の職務担当者が、他の木材業者の入札最低価格を秘かに内示した行為(大審院判決 大正3年12月14日、最高裁判決 昭和37年5月29日
  3. 県税務吏が故意に税金を免脱させた行為(大審院判決 大正8年10月21日)
  4. 公務員が公文書を偽造した行為(最高裁決定 昭和31年7月12日最高裁判決 昭和30年3月31日
  5. 公務員が虚偽公文書作成同行使罪を行った行為(東京高裁判決 昭和41年3月10日
  6. 刑務所看守の在監者へのたばこ差入れ行為(高松高裁判決 昭和40年5月10日)
  7. 税務署員が不当に減額した所得税確定申告書を受理して署長に進達する行為(東京高裁判決 昭和34年12月17日)
  8. 転居した旨を仮装した上、転居先所轄税務署には確定申告を行わないこととし、無申告の発覚を防ぐため、転居先所轄税務署の税務署員において、転居元所轄税務署から送付された課税資料を隠匿破棄する行為(東京地裁判決 平成10年3月17日)

5⃣ 賄賂を収受して「相当の行為をしなかった」の例として以下のものがあります。

  1. 警察官による証拠品の押収取りやめ(最高裁決定 昭和29年9月24日
  2. 犯罪のあったことを知りながら上司に報告しない行為(大審院判決 昭和6年9月12日)
  3. 警察署長が事件を検察庁に送致しない行為(最高裁判決 昭和29年8月20日第三者供賄罪の事例)
  4. 議員が議場を欠席する行為(大審院判決 明治44年6月20日、大審院判決 大正5年11月10日)

 このほか、税務署員が不正申告の黙認欠陥工事を見逃すなどの行政上の責任を有する者の違法行為の黙認も「相当の行為をしなかった」に該当します。

職務密接関連行為

1⃣ 職務に違反する作為又は不作為は、職務行為そのものに限られず、職務密接関連行為に関するものでも足ります。

 贈収賄罪にいう「職務密接関連行為」とは、

  • 本来の職務行為以外の行為であって職務との関わりがあるために公務員により行われるもので、その性質上重要性、公共性が認められるもの、又は本来の職務行為ではないが本来の職務の公正さを確保する観点から公正さが要求されるもの

をいいます(より詳しくは単純収賄罪(14)の記事参照)。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁決定(昭和31年7月12日)

 裁判所は、

  • 収賄した公務員が、法令上管掌する職務に関してではなく、その職務に密接な関係を有する行為につき不正の行為をなした場合にも刑法第197条の3第1項の罪が成立する

と判示しました。

 この判例の事案は、村長の事務の補助者が、村長の作成すべき外国人登録原票等を偽造したというものであり、裁判所は、

  • 公務員が法令上管掌するその職務のみならず、その職務に密接な関係を有するいわば準職務行為又は事実上所管する職務行為に関して賄賂を収受すれば刑法197条の罪は成立するのである
  • 従って公務員が右の罪を犯しかかる準職務行為につき不正の行為を為し、又は相当の行為を為さないときは、同条の3の罪が成立すると解するのを相当とする

と判示しています。

2⃣ また、職務権限は、一般的な職務権限があれば足り、具体的にその事務を担当していることを要しません。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁判決(昭和37年5月29日)

 刑法197条の収賄罪の判例ですが、考え方は加重収賄罪も同様です。

 裁判所は、

  • 刑法第197条にいう「その職務」とは、当該公務員の一般的な職務権限に属するものであれば足り、本人が具体的に担当している事務であることを要しない

と判示しました。

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