前回の記事の続きです。
「職務上」とは?
あっせん収賄罪(刑法197条の4)は、
- 公務員(あっせん公務員)が、請託を受け、他の公務員(職務公務員)をしてその職務上不正な行為をさせ、又は、相当な行為をさせないようにあっせんし、又はあっせんしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束する罪
です。
「職務上」とは、職務に関しての意味であり、
- 職務公務員の職務
に関すれば足ります。
「職務上」の意義は、収賄罪の基本類型である単純収賄罪と同じなので、単純収賄罪(11)の記事をご確認ください。
実行した職務上の行為が「職務密接関連行為」であった場合は、受託収賄罪が成立する
従来は、職務密接関連行為として、同僚の職務公務員に働きかける行為を通常の収賄罪(単純収賄罪、受託収賄罪)で処罰していました。
例えば、
- 業者から石油配給券の発券方を依頼され、権限を有する課に特別割当をして、その課から発券させて賄賂を収受した事例(最高裁決定 昭和32年12月19日)
- 営業純益額の決定事務を処理する税務署属が、業者に有利な決定になるよう上司、同僚に斡旋して賄賂を収受した事例(大審院判決 昭和19年7月28日)
について収賄罪で処罰しています。
※ 職務密接関連行為と収賄罪の成否の説明は、単純収賄罪(14)の記事参照
この点について、昭和33年にあっせん収賄罪が新設されたことによって、法的評価に影響があるか否かが問題となりました。
あっせん収賄罪制定後、最高裁判決(昭和40年9月17日)で
- 税務署から法人所得の調査を受け、売上の脱漏を発見された有限会社の代表取締役Kが、かねて知合の右税務署直税課法人税係Sに対し、その同僚で右調査の担当者であり、法人税の調査並びに賦課に関する職務権限を有する同法人税係Nをして、同人の右職務につき手心を加えてKに利益な取計らいをさせるよう斡旋をなすことを依頼し、右斡旋の謝礼として供与する意思の下、Sに金品を供与したときは、刑法第198条第2項の斡旋贈賄罪が成立する
旨の判示をし、受託収賄に対する贈賄である旨の検察側の主張を排斥したものがあります。
この判決は、あっせんに対する謝礼が明確な場合には、あっせん収賄罪によることを明らかにしたとも解し得ます。
しかし、
- あっせん収賄罪の立法趣旨は、それまで放任されていた行為のうち、何人にも明白に悪質と見られる行為を処罰の対象としたもの
であり、また、
- あっせん収賄罪の法定刑(5年以下の拘禁刑)は受託収賄罪の法定刑(7年以下の拘禁刑)よりも軽い
ことから、
あっせん行為が職務密接関連行為に当たる場合は、受託収賄罪が適用されるべきであり、あっせん収賄罪の制定により受託収賄罪の適用範囲は影響を受けないと解すべき
とされます。