前回の記事の続きです。
「あっせんし、又はあっせんしたこと」とは?
あっせん収賄罪(刑法197条の4)は、
- 公務員(あっせん公務員)が、請託を受け、他の公務員(職務公務員)をしてその職務上不正な行為をさせ、又は、相当な行為をさせないようにあっせんし、又はあっせんしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束する罪
です。
「あっせん」とは?
あっせん収賄罪の「あっせん」とは、
- 請託の内容に従って、職務公務員に対して、その職務に関して、不正な行為をするように働きかけ、便宜を図るよう仲介の労を採ること
です。
「あっせん」は、公務員としての立場で働きかけることが必要であり、全くの私人として、例えば親族関係を利用して働きかけるような場合には、あっせん収賄罪に該当しません(最高裁決定 昭和43年10月15日)。
「働きかけ」とは?
1⃣ 「不正な行為をするように働きかけ」の「働きかけ」は、
あっせんの相手方である職務公務員に対してなされること
を必要とします。
第三者(公務員、非公務員を問わない)に働きかけ、その第三者の影響力を行使して、職務公務員に職務上の不正行為等をさせる場合には、その第三者と共謀関係があったり、間接正犯的な場合はともかく、職務公務員に対するあっせんとは言い難いので、一般にはあっせん収賄罪は成立しません。
なお、職務公務員に対する働きかけは第三者が行ったと認められる場合であっても、その第三者が公務員で、職務公務員の上司に当たる等職務権限がある場合には、第三者たる公務員に対する働きかけがあっせんに当たり、あっせん収賄罪が成立することになると考えられています。
2⃣ 単に紹介状を書き、あるいは職務公務員を引き合わせる程度ではあっせんといえません。
3⃣ 職務公務員に正当な職務行為をするようにあっせんする場合には、あっせん収賄罪にいう「あっせん」とはいえません。
4⃣ あっせん公務員に、不正行為等を職務公務員がするように働きかける意思がなく、単にあっせんだけする意思で金品を得たような場合は、あっせん収賄罪の成立の余地はありません。
「あっせんし」とは?
「あっせんし」とは、
- 賄賂の授受・要求・約束の時点において、将来、あっせんをすること
を意味します。
現実にあっせんが行われることを要せず、あっせんの結果、職務公務員が不正行為をすることも不要です。
「あっせんをしたこと」とは?
「あっせんをしたこと」とは、
- 賄賂の授受・要求・約束の時点において、既にあっせんが行われたこと
を意味します。
あっせんにより職務公務員が不正行為をしたことを要しません。
あっせんの意思がないのにあっせんに藉口して賄賂として金品を得た場合
あっせんの意思がないのにあっせんに藉口して賄賂として金品を得た場合には、詐欺罪のほかあっせん収賄罪の成立を認める説がありますが、詐欺罪のみが成立するにとどまると考えられています。
詐欺罪と収賄罪の関係については、一般に、詐欺罪が成立することは収賄罪の成立を否定するものではなく、両罪が成立する場合もあり得ると解されますが、あっせん収賄罪の場合、例えば不正行為等をさせるようあっせんした事実がないのに、あっせんしたように装い、その報酬を収受した場合は客観的要件を欠き、あっせん収賄罪は成立しないと解されています。
これとの権衡を考えると、不正行為等をさせるようあっせんすることの報酬を収受する場合に、全くあっせんする意思がなく、あるいは、不正行為等をさせるようあっせんする意思が全くない場合は、あっせん収賄罪は不成立と解さざるを得ないとされます。
ただし、職務公務員が、不正行為等に及ぶかどうか確信がないままにあっせん名下に金品を得たような場合は、結局あっせんしなかったとしてもあっせん収賄罪が成立することになります。