前回の記事の続きです。

「収受した賄賂」の意義

 刑法197条の5の没収(没収が不能の場合は追徴)の対象となる目的物は、

  • 犯人又は情を知った第三者の「収受した賄賂」

です。

単に収賄者に提供されたにとどまる賄賂は「収受した賄賂」とはいえない

 単に収賄者に提供されたにとどまる賄賂、例えば、

  • 賄賂が形式的には収受されていても、賄賂を受け取った者に賄賂の認識がない場合
  • 事情を知らない知人が賄賂を預かっており、収受者がまだ現実に賄賂を受け取っていない場合

などは、刑法197条の5による没収の対象になりません。

 判例(大審院判決 昭和6年11月2日)は、大審院の時代から

「公務員又は仲裁人の提供を受けたるも、これを収受せざる場合においては、本項(※刑法197条の5の前身の旧刑法197条2項)の規定を適用すべきものに非ず」

としており、最高裁(最高裁判決 昭和34年7月30日)になってからも

「没収又は追徴しうるのは、収受した賄賂に限られる」

とし、単に提供されたにとどまる賄賂は、刑法197条の5による没収の対象とはならないとしています。

 受領した後に賄賂と分かって、直ちにこれを贈賄者に返還していれば、収受の意思がないことになるから、この場合も刑法197条の5による没収の対象とはなりません。

「収受した賄賂」とはいえない賄賂は、刑法19条の任意的没収の規定を適用して没収が可能である

 収受されなかった賄賂(「収受した賄賂」とはいえない賄賂)については、刑法197条の5の適用はありませんが、原則に戻って、要件を充たす限り、刑法19条の任意的没収の対象となります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正7年11月20日)

 裁判所は、

  • 賄賂提供罪の目的物は、その犯罪を構成要素にして犯罪組成物件なれば、刑法第19条第1号に該当するものとす

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年12月6日)

 裁判所は、

  • 刑法第197条の4は同法第19条を排斥するものではなく、問題の現金2万円は贈賄の「犯罪行為を組成したる物」として刑法第19条により没収せられ得べきものであるからその処置を執るのを適当と認める

と判示しました。

次の記事へ

贈収賄罪の記事一覧