賄賂の没収・追徴(14)~「賄賂を加工したり、他の物と混同したりした場合に、賄賂の同一性をどこまで認めるか?」を説明
前回の記事の続きです。
賄賂を加工したり、他の物と混同したりした場合に、賄賂の同一性をどこまで認めるか?
賄賂を加工したり、他の物と混同したりした場合に、賄賂の同一性をどこまで認めるかは、民法の原則(民法242、243、244、245、246条)に従って決することになると解されています。
賄賂を加工と同一性の考え方については、反物の判例が参考になります。
賄賂が反物であり、その反物を使って衣類を仕立てた事案については、賄賂であると反物と仕立てられた衣類の同一性が認められ、没収可能か否かに関し、判例の見解は一貫していない状況があります。
没収不可能とした判例
大審院判決(大正6年6月28日)
「収受したる反物をもって着物の表と為したる場合の如きは加工により該反物が他の物と合体し、一つの新しき衣類に変更した」とし、没収不可能としました。
没収可能とした判例・裁判例
大審院判決(大正6年3月2日)
「賄賂として収受したる反物をもって単衣を製したる場合の如きは、未だその現物を収受すること能わざる程度に加工変更したるものというを得ず」とし、単衣を作った場合は没収可能としました。
名古屋高裁判決(昭和26年12月10日)
「賄賂として収受した洋服地又は羽二重生地を用いてオーバー又はワイシャツを製造したような場合は、いまだもって、その現物を没収することが出来ない程度に、加工変形したものと言うことを得ないのみならず、既に裁断されてしまったオーバー裏生地や、縫糸、紐釦のようなものについては、これを分離して別に処分する必要がある程度の経済的価値を、認め得ないから、原判決がこれら加工によって出来上った製品の全部を一体とし、各その没収を言渡したことは、いずれも相当であると思われる」としました。
上記のとおり、判例・裁判例の見解は一貫していませんが、着物や洋服の仕立代が、生地代との関係で相当程度高価であり、加工による変形の状況を考えれば、同一性がなく没収はできないという考え方が正しいとする考え方があります。
このほか、賄賂として収受した宅地に変更を加えた例につき、
「庭園等が造成付加されていても、本件宅地そのものは没収できない程度に加工変更されているものとは認められない」
として、分離可能な庭木、庭石を除外して、分離しても無価値な門柱、煉瓦塀を含めて土地を没収した事例があります(福岡高裁判決 昭和37年9月12日)。