賄賂の没収・追徴(15)~「換価代金は没収の対象となる」を説明
前回の記事の続きです。
換価代金は没収の対象となる
換価代金とは、
- 没収することができる押収物で滅失若しくは破損のおしれがあるもの又は保管に不便なものについて、捜査機関が保管の便宜のため、そのものを売却して保有するに至った金銭
換価代金は、刑訴法上、被換価物件と同一視すべきという建前があるので、賄賂となる物件を換価して換価代金とした場合は、その換価代金と賄賂とは同一性を有するとされるので、換価代金は没収の対象となります。
- 原判決は、判示金員を本件犯罪の組成物件であるとしたのではなく、本件犯罪の組成物件たる粳精米並びに小豆の換価代金であるとしたものである
- そして、換価代金は法律上被換価物件と同一視すべきものでその対価ではない
と判示し、押収した犯罪行為組成物件の刑訴第122条(第222条)による換価代金は、刑法第19条の適用上、被換価物件と同一視すべきものであって、同条にいわゆる「対価」ではないとしています。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
大阪高裁判決(昭和51年2月24日)
賄賂である押収物を換価しその代金を特定しないで保管していた場合であっても、これを刑法197の5条を適用して没収することができるとした事例です。
裁判所は、
- 没収は、現に存在し特定された有体物自体を原所有者から剥奪し、これを国庫に帰属させる処分であって、没収の対象物が原形を変更した場合、原物と変更した物との間に同一性が保持されていると認められるときは没収することができるが、同一性が失われてしまったときはもはや没収することはできず、追徴するのほかはなくなる
- このことは、没収対象物が金銭である場合についても同様であって、押収されていたとか、封金で特別に保管されていたとか、その他特定していることが明らかな場合に限り没収することができ、特定していないとか、特定性を喪失するに至ったときは、没収不能としてその価額を追徴する(最高裁昭和22年(れ)第323号同23年6月30日大法廷判決、刑集2巻7号777頁参照)
- そして、没収は裁判確定後に刑事訴訟法496条、490条等によって、没収対象物を公売に付して換価し、その代金を国庫に歳人編入する(没収対象物が通貨であるときは、その通貨そのものを歳人編入する。)
- そのため、没収することができる押収物については没収の裁判及びその執行まで物そのものを現状のままで保管することが原則である(刑事訴訟法121条1項、2条、同規則98条)
- しかしながら、滅失、破損のおそれがあるものや、保管に不便なものについては、そのまま保管を継続することは形式偏重に失し経済上の損失も無視し得ないところから、右の原則に対する例外として、刑事訴訟法122条、222条1項は、「没収することができる押収物で滅失若しくは破損の虞があるもの又は保管に不便なもの」については、判決前にこれを売却してその代価を保管し、後日の没収に備えさせる途を開いているのである
- そして、この場合、被換価物件を売却し代価に転換することにより物そのものとしての同一性は失われるに至るけれども、換価代金は没収の関係においては、法律上はなお被換価物件と同一視すべきものとされ、これを没収 の対象物とすることができるのである(最高裁昭和25年(あ)第477号同年10月26日第一小法廷決定、刑集4巻10号2170頁参照)
- 右にみたところから明らかな如く、没収の対象たる物は、刑法19条1項の定める物そのもの、同法197条の5の定める収受した賄賂そのものでなければならないのを原則とするところから、物の特定性ということが意味を有するわけである
- しかしながら、滅失、破損等のおそれのある押収物の換価、代価保管は、そもそも物そのものの同一性を保持することが困難な事態の発生に対する対応策として認められた措置であり、被換価物件の換価代金への転換により物そのものとしての同一性がなくなることは当然の前提としており、押収物そのものの特定性、同一性の保持を断念して金銭へ転換した後においては、右原則的場合に要請される物の特定性をそのまま要求することはもはや意味をもたないというべきである
- 原判決は、換価代金についても封金扱いする等特定して保管して置かなければ没収することはできないとするのであるが、押収物たる通貨、すなわちそれ自体が証拠となるとか、右原則的場合の没収対象物となるような代替性のない通貨の場合には、他の通貨との混同等を避け、押収時の状態で特定して保管する等のため、封金扱いすべき理由があるけれども、換価代金は、これと異なり代替性を有する通貨であって、押収時の状態で特定して保管するというものではなく、被換価物件と物理上、事実上同一性はないけれども、没収の関係で法律上同一視するにすぎないのであるから、物そのものとしては、もはや同一性を欠く換価代金の通貨自体の特定性を保持すへき必要性、実質的理由は見出し得ない
- かようにみてくると、刑事訴訟法122条が押収物の代価保管にあたって、換価代金の通貨自体を、特定性を保持した状態のままで保管すべきことまでも要求しているとは解せられないのであって、代価保管はその代価すなわち経済的価値を確実に保管しておれば足り、それが金銭という性質上、事故防止、保管の確実性の観点からそれにふさわしい方法によって保管することを許容していると認められるのである
- 右の次第であるから、本件において大阪地方検察庁が昭和28年6月1日法務省刑事局第129号法務大臣訓令「証拠品事務規程」(検察庁法32条、検察庁事務章程21条に基づく)19条により同庁歳入歳出外現金出納官吏たる検察事務官に換価代金の出納保管を取り扱わせ、換価代金を日本銀行に払い込んで保管させていることをもって刑事訴訟法122条、222条に違反する違法の行政処分であるとする原判決の立場は、採りえない
- (ちなみに、昭和35年5月31日最高裁判所規程第2号「押収物等取扱規程」5条2項、6条1項2号、20条2項、下級裁判所会計事務規程第8章も裁判所の換価代金の出納保管につき同様の取扱を認めている。)
- そして、右のように大阪地方検察庁歳入歳出外現金出納官吏たる検察事務官によって日本銀行に払い込まれて保管され、領置票によって本件軽四輪乗用車1台の換価代金の存在とその代価金額が明確にされている本件被換価物件の代価について、被換価物件と同一視してこれを没収することができるというべきである
- しからば、右と異る見解に立ち、本件軽四輪乗用自動車の換価代金を没収することができないとして、その価額金16万1000円を被告人から追徴した原判決は、刑法197条の5の適用を誤ったもので、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである
と判示しました。