賄賂の没収・追徴(16)~「刑法197条の5の『没収することができないとき』とは?」を説明
前回の記事の続きです。
刑法197条の5の「没収することができないとき」とは?
刑法197条の5の「没収することができないとき」とは、
- 本来、没収することができる賄賂であるが、費消・混同などによって没収できなくなった場合
- その賄賂の性質上、没収できない場合
をいいます。
①の例として、
- 賄賂を滅失した場合(現金を遣失した場合につき、大審院判決昭和9年3月6日)
- 賄賂を費消した場合(現金につき、最高裁判決 昭和24年12月15日、最高裁判決 昭和31年2月3日、最高裁判決 昭和26年3月6日)
- 賄賂を預金した場合(最高裁判決 昭和32年12月20日)
- 賄賂を混同した場合(着物の表地とした反物につき大審院判決 大正6年6月28日、金銭につき大審院判決 明治45年5月6日)
などがあります。
収受者が収受した小切手を焼却した場合につき、小切手上の請求権が消滅し、その利益は供与者に帰したことを理由に、収賄者から追徴することはできないとした以下の裁判例があります。
公選法違反事件について事例です。
裁判所は、
- 公職選挙法第224条に同法第221条第1項第4号の収受した利益は没収する、全部又は一部を没収することができないときはその価額を追徴するとあるは一旦授受された利益又はその価額は常に国庫に帰属せしめ受供与者に犯罪による不正の利益を保持せしめないことを目的とするものであるところ、小切手は振出人が支払人に宛て受取人に対し小切手記載の金額を支払うことを委託する文言を有する証券で、受取人の支払人あるいは振出人に対する小切手金額の支払請求権を化体した有価証券であるが、その実質的価値は右債務者の資カ支払意思その他の事情によって種々異なるものであって、その価格は必ずしも小切手金額と一致するものではない
- しかも前記の様に受供与者(受取人)である被告人が原判示金額20,000円の小切手を焼却したときは最早小切手上の請求権は消滅し、爾後被告人は供与を受けた右小切手による不正の利益を保持しているものではなく、むしろ右小切手焼却によりその利益は供与者である振出人のAに帰したものということができるから、被告人から右小切手の価額を追徴することを得ないものと解するのが相当である
- 従って小切手は全部之を没収することができないので公職選挙法第224条によりその価額として金20,000円を追徴するものとした原判決は法令の適用を誤ったものである
と判示しました。
なお、この裁判例の事案の場合、追徴は贈賄者に対して行うことになると考えられます。
②の例としては、
- 酒食の供応(大審院判決 大正4年6月2日、大阪高裁判決 昭和29年3月15日、この場合贈賄者の分は含まれないとするのが大審院判決 大正4年3月13日)
- ゴルフ、旅行等の接待
- 債務の弁済(東京高裁判決 昭和52年7月18日、最高裁決定 昭和41年4月18日)
- 手切金の支払(大審院判決 昭和8年5月26日)
- 土地建物に付合する造作
- 株のプレミアム(東京高裁判決 昭和56年3月10日)
- ゴルフクラブの会員権(性質上没収することができないとして、収受時の価額を追徴すべきとする。最高裁決定昭和55年12月22日)
- 金融の利益(福岡高裁判決 昭和27年7月5日、札幌高裁判決 昭和34年12月19日、もっとも、金融の利益は、利益として算定不能であるので本条により追徴し得ない。19条・19 条の2によって追徴することは可能である。最高裁決定 昭和33年2月27日、最高裁決定 昭和36年6月22日)
- 異性との情交(最高裁判決 昭和36年1月13日)
の事案が挙げられます。