前回の記事の続きです。

不可分物の没収・追徴の範囲

賄賂と正当な謝礼等とが包括して不可分的に収受された場合には、全体が没収・追徴対象となる

 刑法197条の5の趣旨からいけば、没収・追徴は、賄賂の全てに及びますが、それ以上には及ばないと解すべきとされます。

 賄賂の利益を収賄者にとどめないとするのが刑法197条の5の目的であるので(大審院判決 大正11年4月22日)、そのように解されています。

 しかし、賄賂と正当な謝礼等とが包括して不可分的に収受された場合には、全体が賄賂性を帯び、全体が没収・追徴の対象となります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正9年12月10日)

 裁判所は、

  • 公務員の職務行為に対する謝礼と職務外の行為に対する報酬とを不可分的に包括して財物その他の利益を提供し、公務員においてその事実を知りながらこれを収受したるときは、その各部分は賄賂をたらざる性質と共に賄賂たる性質を具有するをもって、該物件又は利益の全部はこれを包含して不可分的に賄賂性を帯びうるものと断定すべく、その反対の側面のみを観察して全部若しくは一部に違法性なしということを得ず

と判示しました。

大審院判決(昭和3年5月24日)

 裁判所は、

  • 公務員が賄賂と賄賂に非ざる謝礼とを兼ね、これを分別することを得ざる金銭を収受したるときは、その金額全部を没収若しくは追徴すべきものとす

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年10月23日)

 裁判所は、

  • 公務員の職務行為に対する謝礼と職務外の行為に対する謝礼との趣旨を不可分的に含めて提供された金員は、全部包括して不可分的に賄賂性を帯びる

と判示しました。

可分物の没収・追徴の範囲

 不可分物については全体が賄賂と理論上ならざるを得ず、それを分割し得ない以上、全部を没収・追徴の対象とするのはやむを得ません。

 しかし、金銭のような可分物については、算定可能な限り分割すべきとされます。

 この場合、賄賂自体が分割された金額ということになり、没収・追徴もその分に限定さます。

 可分物で、賄賂分の算定が可能であるのに、包括して全体を賄賂と認めるのは、被告人に実際の行為以上の刑事責任を負わすことになる上、正当な謝礼まで没収・追徴の対象とすることになるので、物理的に不可能ならともかく、可能な場合には、責任以上の負担を課するもので許されないと解すべきとされます。

 公職選挙法224条の没収・追徴につき、判例(最高裁決定昭和29年7月14日)が

「選挙運動につき、その報酬と費用との割合が明瞭にされず、従って右両者を区別することなく包括して供与された金員は、その全額が没収又は追徴の対象となる」

としているのは、逆にいえば、割合が明確ならば、包括して供与された場合でも、その全額を没収・追徴の対象としないことを意味しているというべきとされます。

 大審院判例(大審院判決大正12年2月6日)で、職務外の運動費と賄賂とを含む金銭の収受について、

「収賄者がその職務上の行為に対する報酬を受けるに当たり、同時に職務外の行為に関する費用等を合わせこれを包括して不可分的に財物を収受したる後、その収受の趣旨に基きその財物中不可分なる一定の額を分割して他の公務員よりこれが没収又は追徴を為す場合に在りては、当初の収賄は縦し不可分的の関係あるの故をもって収受する財物全部につき犯罪成立するとするも、これが没収若しくは追徴の贈賄を為したる残額に止むべきものと断定せざるべからず」

と判示して、収賄は全額成立しても、没収・追徴は、現実に利益の存する限度にとどめるとしているものもがあります。

 下級審判例(高松高裁判決 昭和40年5月10日)で、刑務所看守が、たばこの差人れの依頼を受けて、実費を含んで現金を収賄した事案につき、たばこの実費を控除した金額について収賄を認め、没収・追徴の対象とした裁判例があります。

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