前回の記事の続きです。

飲食供応の場合の追徴の範囲

 追徴の範囲が問題になる事例として、

  1. 酒食等の供応において、贈賄者も加わるのが通常であることから、贈賄者の費用をどのように解するのか
  2. 収受した賄賂を収賄者が利用して果実を得た場合に、その果実に対する追徴をどうするか
  3. 賄賂の追徴・没収に第三者が関与した場合の権利関係はどうなるか

があります。

 この記事では①について説明します。

1⃣ 酒食等の供応の場合の費用の範囲について、被告人(収賄者)、贈賄者、他の者とで飲食した場合において、被告人から追徴する追徴額は、被告人に要した費用のみとするのが確立した判例の立場です。

大審院判決(大正4年3月13日)

 裁判所は、

  • A、Bの依頼により賄賂の目的をもって加功者Cと共にDを供応したる場合において、その追徴すべき賄賂の価額は収賄者Dのために要したる部分のみなりとす

と判示しました。

2⃣ 女中に対するチップ、店に対する祝儀、消費税などの費用も総費用の中に含めて計算し、賄賂の収受者となる被告人の追徴額を特定することとなります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(昭和8年12月8日)

 裁判所は、

  • 賄賂の目的をもって公務員を料理店に招待し、これを供応する場合において、その料理店主若しくは使用人に対し茶代、礼儀又は心付けとして交付する金員の如きもその額にして相当の範囲を超えざる以上は、これまた供応のために要したる費用と認むるを相当とす

と判示しました。

3⃣ 収受者と贈賄者との各自に要した費用が不明な時には、平等に分割して収賄の額とし、それを追徴することになります。

 賄賂の分配が不明な場合は、等分した額を追徴することを判示した以下の判例・裁判例があります。

最高裁判決(平成16年11月8日)

 裁判所は、

  • 収賄の共同正犯者2名が共同して収受した賄賂について、両名が共同被告人となり、両名の間におけるその分配、保有及び費消の状況が不明であるなど判示の事実関係の下においては、賄賂の総額を均分した金額を各被告人から追徴することができる

と判示しました。

東京高裁判決(昭和62年2月10日)

 裁判所は、

  • 賄者が収受した賄賂を情を知る上司と分配した疑いがあるが分配額が不明であるときは、賄賂は同人らが等分したものと推定し、収賄者からはその限度で追徴すべきである

としました。

東京高裁判決(平成12年11月29日)

 裁判所は、

  • 刑法197条の5後段の追徴は必要的になされるものであるから、本件のように収賄の共同正犯者が共同して収受した賄賂について、共同正犯者間におけるその分配、保有及び費消の状況が不明である場合には、賄賂の総額を均分した金額を各自から追徴すべきものと解されるのであって、その旨の原判決の判断は正当である

と判示しました。

4⃣ 公務員が接待者側を、その飲食代金も自己が負担する意思で飲食に誘い、後日飲食代金全額を接待者側に支払ってもらって飲食代金の支払を免れたような事案では、接待者側の飲食代金も含めて収賄者から追徴することになります。

 この点を判示したの以下の裁判例です。

東京地裁判決(平成2年3月26日)

 労働省職業安定局業務指導課長が、就職情報誌の発行に関する法規制の検討及び行政指導等に関して便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼等の趣旨で、就職情報誌発行会社幹部らから接待等を受けたことが収賄罪に該当するとされた事例です。

 裁判所は、

  • 弁護人は、別表番号28記載の有限会社△△名義口座への飲食代金の振込送金による支払金額のうち、カラオケバーにおける昭和59年9月28日ころの飲食代金1万9485円から、リクルートの社員であるNの飲食代金分は差し引くべきである旨主張している
  • しかしながら、前掲関係各証拠によれば、Nは被告人が同店に誘って飲食したものであり、被告人は、自己の部下の飲食代金のほかNの飲食代金も自己が負担する意思で同人らを同店に誘ったものであることが認められる
  • そして、関係証拠によれば、当日の被告人及びその一行に属する部下職員並びにNの同店における飲食の代金は1万9485円であったことが明らかであり、従って、被告人は、別表番号28記載のとおりの振込送金をしてもらうことにより、右の飲食代金全額について、その支払いを免れる利益を受けたものと認められるから、弁護人の右主張は理由がない

と判示し、被告人から上記飲食代金全額を追徴する判決を言い渡しました。

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