前回の記事の続きです。

収受した賄賂を収賄者が利用して果実を得た場合の追徴の範囲

 追徴の範囲が問題になる事例として、

  1. 酒食等の供応において、贈賄者も加わるのが通常であることから、贈賄者の費用をどのように解するのか
  2. 収受した賄賂を収賄者が利用して果実を得た場合に、その果実に対する追徴をどうするか
  3. 賄賂の追徴・没収に第三者が関与した場合の権利関係はどうなるか

があります。

 この記事では②について説明します。

1⃣ 収受した賄賂を収賄者が利用して果実を得た場合については、賄賂そのものではないので、刑法197条の5による没収の対象とならず、したがって追徴もできないと解すべきとされます。

 賄賂を預金したり、投資して得た利益は、結局そのまま保持し得ることとなり、収賄による利益が収受者の手許に残ることになりますが、刑法197条の5による追徴ができないのはやむを得ないところとなります。

 しかしながら、組織的犯罪処罰法が没収・追徴の対象に犯罪収益に由来する財産の没収・追徴を定めているので、財産上不法な利益を図る目的で収賄罪を犯した場合には、賄賂の果実も組織的犯罪処罰法により任意的没収・追徴を行うことができます。

※ 詳しくは賄賂の没収・追徴(1)の記事の「組織的犯罪処罰法の没収・追徴規程との関係」の項目参照

2⃣ 果実ではありませんが、タクシー券や航空機の優待券のようにそれが行使されて初めて、賄賂の利益を生ずるものがあります。

 その使用前ならばその券そのものを没収することになるものの、使用された場合の追徴額が問題となります。

 タクシー券も優待券も、利用最高額が決まっているので、その額の追徴という考えもありますが、利益を手許に残さないという考えからいけば、実際の利用額、タクシーなら乗車に要した金額、優待券なら優待を受けて支払を免れた金額を追徴すべきことになると考えられています。

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