賄賂の没収・追徴(2)~「収賄罪が共犯で行われた場合に誰から賄賂を没収・追徴すべきか?その1」を説明
前回の記事の続きです。
収賄罪が共犯で行われた場合に誰から賄賂を没収・追徴すべきか?その1
1⃣ 賄賂の没収・追徴で問題になるのが共犯者がいた場合です。
収賄罪が犯したのが収賄者一人であれば問題はありませんが、共犯者がいた場合に賄賂を誰からいくら没収するかという問題が生じます。
まず、前提として、没収の基本規定である刑法19条2項にいう犯人には、共犯者を含みます。
共犯者が起訴済みでも、また、判決が別に成立していても同じです。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(明治44年2月13日)
裁判所は、
- 刑法第19条第2項にいわゆる犯人とは、現に審判せられる犯人のみに限らず、その共犯者にして既に審判を受け、判決の確定したる者もまたこれに包含するものとす
と判示しました。
2⃣ 賄賂を複数人が共同して収受した場合には、その態様によって、没収・追徴の相手方や考え方が異なるところ、以下の①~⑤の項目に分けて説明します。
- 共同収受した賄賂を共犯者間で共有している場合
- 共同収受した賄賂を共犯者のうちの一人が取得している場合
- 賄賂を共犯者間で分配して費消した場合
- 非公務員が共犯者であった場合
- 賄賂が教唆者、幇助者に分配された場合
この記事では、①と②について説明します。
① 共同収受した賄賂を共犯者間で共有している場合
共同収受した賄賂を共犯者間で共有している場合には、
共犯者全員から賄賂全部を没収する
ことになります。
この場合、共同被告人となっていない共同正犯者がいる場合でも、その共有分を含めて、全部が没収の対象となります。
※ 「共同被告人」とは、共犯関係にある被告人が同じ裁判で同時に被告人となった状態をいいます。例えば、一つの裁判で2名の共犯関係にある被告人が同時に裁判を受ける状態が該当します。
ただし、共同被告人となっていない共犯者について、防御の機会を与えずその財産を没収することは憲法31条、29条に反するので(最高裁判決 昭和37年11月28日参照)、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法による手続に参加させることになります。
なお、共犯者全員に没収が命じられても、没収は、その性質上、現存する賄賂自体に対するものであるから、それ自体について没収が執行されれば目的を達するのであり、没収の数を乗じた価値の利益が没収されるわけではありません。
つまり、共犯者全員から賄賂全部を没収するという判決が言い渡された後、共犯者の一人から賄賂全部を没収すれば没収の執行はそれで終了であり、他の共犯者からさらに没収の執行をすることはありません。
② 共同収受した賄賂を共犯者のうちの一人が取得している場合
1⃣ 共同収受した賄賂を、共犯者のうちの一人又は一部の者が取得し、その全部又は一部が現存する場合には、賄賂を取得した者に対して没収を言渡すことになります。
この場合に、他の共犯者に対しても賄賂の没収を言い渡すべきかが問題となります。
この点、判例は他の共犯者に対しても賄賂の没収を言い渡すことができるとします。
最高裁決定(平成16年11月18日)
裁判所は、
- 収賄の共同正犯者が共同して収受した賄賂については、これが現存する場合には、共犯者各自に対しそれぞれ全部の没収を言い渡すことができる
として、共犯者全員から賄賂全部の没収の判決を言い渡すことができるとしました。
したがって、賄賂の全部又は一部が現存する限り、具体的な分配額に関係なく、共犯者全員に対し当該賄賂全部の没収を言い渡すことができることになります。
2⃣ この場合に、現に賄賂を有する者ではない共犯者にも没収を言い渡すことが必要的か、このような没収の言渡しをしなかった場合に、刑法197条の5の必要的没収の趣旨に反することになるかどうかは別の問題となります。
この点、上記判例は、刑法197条の5による没収は必要的に行うべきものであるとしつつ、「共犯者各自に対しそれぞれ全部の没収を言い渡すことができる」と述べ、全員からの全部没収は必要的なものでないことを明らかにしています。