前回の記事の続きです。

賄賂の追徴・没収に第三者が関与した場合の権利関係

 追徴の範囲が問題になる事例として、

  1. 酒食等の供応において、贈賄者も加わるのが通常であることから、贈賄者の費用をどのように解するのか
  2. 収受した賄賂を収賄者が利用して果実を得た場合に、その果実に対する追徴をどうするか
  3. 賄賂の追徴・没収に第三者が関与した場合の権利関係はどうなるか

があります。

 この記事では③について説明します。

賄賂の追徴・没収に第三者が関与した場合の権利関係

 刑法197条の5の場合、刑法19条2項のように、「没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる」という限定がありません。

 しかし、第三者が既にその所有権を取得している場合や物権等を設定している場合には、没収がその物を国において原始的に取得する処分であることに鑑み、刑法197条の5の場合にも同様の限定があると解すべきとされます。

 問題は、悪意の第三者がその物の所有権を有し、その他の権利を設定している場合及び第三者が賄賂につき有する権利が債権である場合です。

 悪意の第三者といえども、実質的に賄賂につき所有権や物権を有する以上、没収によってその権利を剥奪することはできません。

 ただ、贈収賄罪の情を知っている第三者については、第三者収賄ばかりでなく、収賄罪一般についても没収を含めるべきであるので、その場合は第三者から没収ができます(没収するにあたっては、第三者所有物の没収手続を要します)。

 しかし、悪意であっても、賄賂の処分先にすぎない場合には、収賄者からの追徴によるべきと考えられます。

 もとより、譲渡を仮想しているような場合には没収ができるとされます。

 第三者が、物権ではなく、単にその物に対して債権を有するにすぎないような場合、没収は妨げませんが、債権関係は残ることになります。

 没収は、国庫が所有権を原始的に取得するものですが、この関係は、没収の言渡しを受けた者と国との関係にとどまると考えれています。

 この点に関する民事の判例があります。

最高裁判決(昭和37年4月20日)

 裁判所は、

  • 刑事判決において「経済関係罰則の整備に関する法律」4条により株券が没収されたときは、没収の効力は右株券に表彰される株主権に及ぶと解すべきであり、また、本件のように、没収の目的である株券が押収されて検察官に保管されている場合には、没収の判決の確定と同時に没収の効力、換言すれば、株式の国庫帰属の効力(但し、少くとも没収の言渡を受けた者と国との関係においてである)を生じ、この場合特に所論のような検察官の執行命令による執行を必要とするものではないと解するのが相当である
  • 本件株券没収の判決確定と同時に、少くとも上告人と被上告人との関係においては、右株券に表彰される株主権は被上告人に移転すると解すべきであるから、上告人が、右判決確定後本件株式につき被上告人に名義書換がなされるまでの間に、株主名簿上の株主として交付を受けた本件利益配当金及び無償交付の新株(またはその売得金)を不当利得として被上告人に返還すべき義務のあることは明らかである

と判示しました。

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