前回の記事の続きです。

不動産(土地・建物)の没収

 不動産(土地・建物)が賄賂とされた場合でも、これを没収することは可能です。

 裁判例も、賄賂として土地を収受し、その後に庭園等を作って現状を変更した例について、土地の没収を認めています。

 また、賄賂として収受した建物について、これを没収可能としています。

福岡高裁判決(昭和37年9月12日)

 賄賂として収受した土地の没収を認め、その土地に収賄者がその後、囲障、くぐり戸、庭園等を造った場合における土地の没収の範囲を判示した事例です。

 裁判所は、

  • 論旨(※弁護人の主張)は要するに、原判決は、被告人Aから甲県〇〇番の宅地26坪一勺及び同所△△番の宅地54坪を没収することとしているが、右宅地はいずれも本件当時畑地であったのを被告人Aが事後において原状を変更し、現在のように囲障、門ロ、庭園その他を造成しているので、今日これを畑地の原状に分割処理することは不可能である。従ってこれらを没収することはできず、当時の価額を追徴することとするのが相当であるにかかわらず、原判決がその挙に出でなかったのは失当である、というのである
  • よって按ずるに…被告人Aは、Tより本件宅地建物をもらい受けた以後において、自ら門柱横の煉瓦塀の一部、外周の石垣(宅地の高さ上に上に築き上げた部分)及び庭のくくり戸を築造し、また庭木、庭石を入れて庭園を造成したことが認められる
  • しかし原判決が没収することとしているのは、右庭園等まで含めた現在の状態における本件宅地とする趣旨ではないと考える
  • けだし、庭園等が造成付加されていても、本件宅地そのものは没収できない程度に加工変更されているものとは認められないめられないので、なお没収し得べき状態にあり、当然これを没収すべきであるが、刑法第197条5(本件当時は第197条の4)の法意上、犯人が収受した利益をえて没収すべきでないところから、少くとも相当の価値を有し、宅地そのものより分難して移動することもさして困難でない右庭本、庭石の如きはこれを除外して本件宅地を没収することとしたものと解される
  • もっとも右庭木、庭石を除いただけではなお前示門柱横の煉瓦塀の一部、外周りの石垣及び庭のくぐり戸が残り、被告人Aが収受した利益以上を没収することになるけれども、これを宅地そのものより分離するとすればほとんどその効用を失い、分離して別に処分する必要がある程度の経済的価値あるものとは認め難いので、これらを付かして一体となった本件宅地を没収することとしても、前記法条の趣旨にもとる違法な措置とはなし難い
  • 果してそうだとすると、原判決が被告人Aから本件宅地二筆を没収することとしているのは違法とするに当らす、法令の誤用とはならないので、論旨は理由がないなお所論中には量刑不当を主張する部分も存するが、諸般の情況に照らすと、原判決の被告人Aに対する刑の量定はむしろ相当であると思われるので、とるを得ない

と判示しました。

秋田地裁判決(昭和58年12月14日)

 収受した賄賂が建物である場合に、これを没収することができるとした事例です。

 裁判所は、

  • 木造トタン葺二階建車庫兼物置1棟及び板塀は判示第一の犯行により、押収してある杉伐根製衝立1個は判示第六の犯行により、同プビンガ製テーブル1脚は判示第七の犯行により、同台湾楠製テーブル1脚は判示第九の犯行により、同けやき製長火鉢1個は判示第一〇の犯行により、同杉伐根製テーブル1脚は判示第一一の犯行により、同天然杉天井板48枚は判示第一四の犯行により、それぞれ被告人が収受した賄賂であるから、同法197条の5前段によりこれらを被告人から没収し、被告人の収受した判示第一の木製飾り塀と自宅屋根補修工事の利益、判示第二ないし第五、第八、第一二、第一三の各賄賂はいずれも没収することができないので、同法197条の5後段によりその価額金合計457万8000円を被告人から追徴することとする

と判示しました。

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