賄賂の没収・追徴(24)~「賄賂の没収・追徴のための要件の認定方法」を説明
前回の記事の続きです。
賄賂の没収・追徴のための要件は証拠によって証明されなければならない
収賄罪において、没収・追徴のための要件が存在することは、証拠によって証明されなければなりません。
したがって、検察官は、裁判において、没収又は追徴を行う必要がある事実を立証する必要があります。
裁判官は、恣意的な事実認定によって、没収又は追徴を言い渡すことはできません。
これは、没収も、追徴も、付加刑とはいえ、刑であるためです。
賄賂の没収・追徴のための要件の認定方法
没収・追徴は罪体(犯罪そのものの客観的な存在を示す事実)ではないので厳格な証明は要しません。
1⃣ 例えば、没収・追徴のための要件を被告人の自供だけで認定するのを妨げません。
この点に関する以下の判例があります。
犯罪構成要件以外の事実を被告人の自供のみによって認定することができることを明示した判決です。
裁判所は、
- 憲法38条3項の定める、自白を唯一の証拠とすることの禁止は、もともと犯罪事実の認定に関するものであることは、当裁判所大法廷の判例の趣旨に徴して、おのずから明らかである(昭和23年(れ)第168号同年7月29日大法廷判決)
- (賄賂の現金を)費消したという事実は、もとより被告人の収賄罪を構成する事実ではなく、単に右金員を没収することが不能となった原因として追徴の理由となっているに過ぎない
- それゆえ、原審が、右費消の事実を、所論供述調書中の自供のみを資料として認めたとしても、すこしも、違法ではない
と判示し、没収・追徴のための要件を被告人の自供だけで認定することを認めました。
2⃣ また、収賄金が被告人の手許に現存しない事実によってこれを費消したと認定しても、 違法ではありません。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(明治42年12月17日)
裁判所は、
- 賄賂収受罪を断ずるに当たり、収受金が被告の手許に現存せざる事実に依拠し、被告人においてこれを費消したるものと判定するは不法に非ず
と判示しました。
3⃣ 2⃣の判例の立場もあり、没収することができない理由や、追徴金額の算定の基礎について証拠説明を要しません。
この点を判示した以下の判例があります。
裁判所は、
- 判決で追徴を言い渡す場合、必ずしも特に、没収することができなかった具体的理由および追徴金額算出の基礎を、証拠を掲げて説明するを要しない
と判示しました。
大審院判決(大正3年5月22日)
裁判所は、
- 汚職罪における収受したる金員を費消したる事実は罪となるべき事実に非ざるをもって、たとえこれを没収すべきや、またはその価額を追徴すべきやの判定上重要なる関係を有する事実なりとするも、証拠によりこれを認めたる理由を説明する必要なし
と判示しました。
4⃣ 賄賂を没収するに当たり、没収すべきものが、裁判所により押収されていることを要しません。
没収物が存在し、没収の要件が存する限り、没収できます。
現実に没収が可能かどうかは、没収の裁判を執行する際の手続上の問題であり、没収の判決を言い渡すことを妨げるものではありません。
結果として没収が不可能となった場合は、没収の裁判を執行する検察官において没収の裁判の執行不能の判断をすることになります。
この点に関する以下の判例があります。
裁判所は、
- 没収を言い渡すためには、その物件が裁判所により押収されている物であることを要しない
と判示しました。