賄賂の没収・追徴(4)~「収賄罪が共犯で行われた場合に誰から賄賂を没収・追徴すべきか?その3」を説明
前回の記事の続きです。
収賄罪が共犯で行われた場合に誰から賄賂を没収・追徴すべきか?その3
賄賂の没収・追徴で問題になるのが共犯者がいた場合です。
収賄罪が犯したのが収賄者一人であれば問題はありませんが、共犯者がいた場合に賄賂を誰からいくら没収するかという問題が生じます。
賄賂を複数人が共同して収受した場合には、その態様によって、没収・追徴の相手方や考え方が異なるところ、以下の①~⑤の項目に分けて説明します。
- 共同収受した賄賂を共犯者間で共有している場合
- 共同収受した賄賂を共犯者のうちの一人が取得している場合
- 賄賂を共犯者間で分配して費消した場合
- 非公務員が共犯者であった場合
- 賄賂が教唆者、幇助者に分配された場合
この記事では④、⑤について説明します。
④ 非公務員が共犯者であった場合
公務員と非公務員との共謀による収賄事案において、賄賂が専ら公務員である共犯者の職務と対価関係にあることに着目して、その者に対してのみ全額の追徴を命じ、非公務員の共犯者に対しては追徴を命じないことも考えられますが、非公務員の共犯者が分配等を得ている場合には、少なくともその価額の追徴は命じるべきであると考えられています。
公務員の身分のない者にも、収賄罪の共同正犯が成立し(この点の説明は単純収賄罪(10)の記事参照)、この場合、身分いかんによって、没収・追徴につき別異に扱う理由はありません。
最高裁決定(平成16年11月18日)は、「賄賂を共同収受した者の中に公務員の身分を有しない者が含まれる場合であっても、異なる扱いをする理由はない」と述べています。
⑤ 賄賂が教唆者、幇助者に分配された場合の没収・追徴
賄賂を正犯が収受するについて、これを教唆・幇助した者が、正犯からその分け前を得た場合に刑法197条の5の適用があるか否かという問題があります。
この問題については、現行刑法において明確な答えは出ていませんが、参考となる以下の判例・学説の考え方があります。
旧刑法時代の判例(大審院判決 明治40年5月13日)で、
- 賄賂収受を幇助し収受を容易ならしめたるまでにして収受者にあらざりしは、たとえその賄賂につき現実幾分の利益を受けたりとするも、これ収賄者より利益の供与を受けたるものにして直接賄賂を利得するものにあらざれば、没収又は追徴を受くべきものにあらず
と判示したものがあります。
学説では、教唆犯・幇助犯ともに、賄賂を収受した者ではないから、一般的には、収受後の賄賂の処分先にすぎず、刑法197条の5の適用はないと解すべきであるとする見解があります。
反対に、刑法197条の5の「犯人」には狭義の共犯者(教唆者・幇助者)を含むとする見解もあり、刑法197条の5の趣旨が収賄犯人らに不正な利益の保有を許さず、これをはく奪して国庫に帰属させることにあることからすると、賄賂の分配を受けた教唆者・幇助者も必要的没収・追徴の対象に含めるべきではないかという見解もあります。