賄賂の没収・追徴(5)~「収賄罪の賄賂要求罪・賄賂約束罪に対して賄賂の没収・追徴が可能か?」を説明
前回の記事の続きです。
収賄罪の賄賂要求罪・賄賂約束罪に対して賄賂の没収・追徴が可能か?
収賄罪には種類があり、代表的なものとして、
- 刑法197条1項前段で「単純収賄罪」
(単純収賄罪は、犯行態様に応じて「賄賂収受罪」「賄賂要求罪」「賄賂約束罪」に細分されます)
- 刑法197条1項後段で「受託収賄罪」
(受託収賄罪は、犯行態様に応じて「賄賂収受罪」「賄賂要求罪」「賄賂約束罪」に細分されます)
があります(収賄罪の種類の説明は単純収賄罪(1)の記事参照)。
この記事では、単純収賄罪又は受託収賄罪の「賄賂要求罪」「賄賂約束罪」における没収・追徴について説明します。
これについては、収賄が賄賂要求罪・賄賂約束罪にとどまる者が、賄賂を現実に収受している場合に、その賄賂が刑法197条の5の対象となるかという問題があります。
具体的には、例えば、公務員在職中に賄賂の要求、約束をし、公務員でなくなった後に賄賂を収受したが、単純収賄罪しか成立しない者について、賄賂の収受があるとして、刑法197条の5による没収をすべきかという問題です。
結論として、刑法197条の5が、単に収受した賄賂と規定するのみで、収受罪を構成する賄賂か、要求、約束罪に基づく賄賂かを区別していないことから、収賄の要求罪、約束罪にとどまる者でも賄賂を刑法197条の5により没収できると積極に解するのが多数説です。
理由として、
- 要求、約束罪が成立するには、賄賂の要求、約束をすればよく、実際に賄賂を収受することが不要ですが、賄賂の収受自体は、要求、約束の概念に含まれており、要求、約束罪においても、賄賂の収受を予定していることから、収受した賄賂が理論上ないとはいえないこと
- 昭和16年に第三者供賄罪(刑法197条の2)が設けられ、同罪は第三者の賄賂収受が構成要件とされていないのに新たに刑法197条の5が設けられ、「情を知したる第三者の収受したる賄賂」が没収・追徴の対象とされるに至ったこと(それ以前の刑法197条の5の前身にはこのような規定はない)
を考えると、刑法197条の5にいう「収受」は賄賂収受罪が成立する場合に限られず、それに準じて考えられる収賄の要求罪、約束罪の場合も含んでおり、要求罪、約束罪で得た賄賂も刑法197条の5による没収・追徴の対象になると解すべきとされます。
なお、モーターボート競走法(昭和32年法律第170号による改正前のもの)29条の特別賄賂罪に関する裁判例(広島高裁判決 昭和34年6月12日)で、
- …第29条第3項の規定は同条第1、2項の罪を犯した者をしてその犯罪の結果得た不正の利益を保持せしめないことを目的とするものであるから、その犯罪が賄賂を収受することによって成立する場合に限らず、賄賂を要求し若くは約束することによって成立する場合であっても、その結果供与を受けた不正の利益である以上これを没収すべきものとする法意であると解するのが相当である
とするものがあり、この考え方は、刑法197条の5にも共通すると考えられています。