前回の記事の続きです。

贈賄者からの賄賂の没収・追徴 その2

 贈賄者は、賄賂を収受する者ではないので、通常は、贈賄者が没収・追徴の対象者となることはありませんが、賄賂が収賄者や第三者に収受された後に、贈賄者に返還された場合には、贈賄者から没収・追徴すべきかが問題となります。

 この問題に対する説明は、

  1. 収賄者が収受した賄賂が贈賄者にそのまま返還された場合
  2. 収賄者が収受した賄賂に相応する対価が贈賄者に返還された場合
  3. 収賄者が収受した賄賂の一部を贈賄者に交付した場合
  4. 収受した賄賂を費消後に同額を贈賄者に返還した場合
  5. 収賄者が賄賂の一部を費消、混同したりした後、これを補填して、全額を贈賄者に返還した場合
  6. 収賄者から贈賄者に返還された物が、賄賂そのものか代替物か分からない場合

に分けて、贈賄者から賄賂を没収すべきか否かを説明します。

 この記事では、③について説明します。

③「収賄者が収受した賄賂の一部を贈賄者に交付した場合」に贈賄者から賄賂を没収すべきか?

 収賄者が収受した賄賂の一部を贈賄者に交付した場合でも、返還というより、収賄者の利益のための費消行為であり、収賄者がその利益を保有していると見られる場合があります。

 他方、賄賂の一部を贈賄者に分配する趣旨で交付した場合は、収賄者側が利益を保有しているとは言い難い状況となります。

 このような場合、収賄者・贈賄者のいずれから没収・追徴すべきかが問題となります。

 結論として、

  • 収受者がその後において賄賂の全部又は一部を贈賄者に交付したとしても、自己の債務の返済や自己が出費すべき金員を預けたものである場合には、費消行為と同視し得る処分行為の一態様として、収賄者から、交付分に相当する金員を追徴すべきである
  • 収受者が賄賂の一部を贈賄者に分配したり、これと同視し得るような場合には、贈賄者から没収・追徴すべきである


と考えれています。

 参考となる以下の裁判例があります。

仙台高裁判決(平成5年3月15日)

 3570万円の賄賂金を収受し、そのうち2170万円を贈賄者に交付した事案です。

 裁判所は、

  • 賄賂金を収受した者がその後においてその全部又は一部を贈賄者に交付したとしても、それが自己の債務の返済や自己が出費すべき金員を預けたものである場合には費消行為と同視し得る処分行為の一態様として収賄者からその交付金の全部につき没収に代わる追徴をすべきものであって、このことは賄賂金の授受に際してその場で直ちに差引き計算をしてそれらの賄賂金を現実に手中に収めなかったとしても同様である
  • これに対し、収賄者が賄賂金の全部又は一部を贈賄者に返還したり、その一部を分配したような場合あるいはこれと同視し得る場合には、その賄賂金は贈賄者から没収又は追徴されることは別として、収賄者からは没収に代わる追徴をすることはできないものと解するのが相当である
  • 右のように解することは収賄者のみならず贈賄者をも含めて不正な利益の保有を許さないとする刑法197条の5の立法趣旨に沿う所以であるということができる

と述べ、1370万円については返還ないし分配と同視し得るが、長男の入学工作資金や既に用立ててもらっていたトラブル解決金の清算分として交付した800万円分については、収賄者から追徴すべきとしました。

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