前回の記事の続きです。

贈賄者からの賄賂の没収・追徴 その3

 贈賄者は、賄賂を収受する者ではないので、通常は、贈賄者が没収・追徴の対象者となることはありませんが、賄賂が収賄者や第三者に収受された後に、贈賄者に返還された場合には、贈賄者から没収・追徴すべきかが問題となります。

 この問題に対する説明は、

  1. 収賄者が収受した賄賂が贈賄者にそのまま返還された場合
  2. 収賄者が収受した賄賂に相応する対価が贈賄者に返還された場合
  3. 収賄者が収受した賄賂の一部を贈賄者に交付した場合
  4. 収受した賄賂を費消後に同額を贈賄者に返還した場合
  5. 収賄者が賄賂の一部を費消、混同したりした後、これを補填して、全額を贈賄者に返還した場合
  6. 収賄者から贈賄者に返還された物が、賄賂そのものか代替物か分からない場合

に分けて、贈賄者から賄賂を没収すべきか否かを説明します。

 この記事では、④について説明します。

④「収受した賄賂を費消後に同額を贈賄者に返還した場合」に贈賄者から賄賂を没収すべきか?

 収受した賄賂を費消後に同額を贈賄者に返還した場合については、公平の観点から言えば、収賄者から更に追徴することは、苛酷なばかりか、贈賄者に利益が残ることから、贈賄者から追徴すべきという考え方があります。

 しかし、判例(大審院判決 大正14年8月1日)は、

収賄者が賄賂を費消した以上、収賄者から追徴するのは当然である

とします。

 その理由として、

犯罪に関する利益の剥奪が刑法197条の5(前身の197条2項)の趣旨なので、「収賄者が賄賂の目的物を贈賄者に返還せずしてこれを費消したるときは、収賄者よりその価額を追徴すべきものにして後日収賄者より追徴金に相当する全部を贈賄者に還給したりとするも為に追徴に関する法律上の責務を免脱するを得ざるなり」

としています。

 この立場は、最高裁(最高裁判決 昭和24年12月15日)でも踏襲され、

「被告人はその賄賂を費消すると共にその利益を享受し終り、もはやこれを没収することができなくなったものといわなければならない」

としています。

 賄賂を収受者が費消した以上、賄賂そのものの返還ではないので(最高裁判決 昭和31年2月3日)、没収は不能であり、したがって、刑法197条の5の法文に従って追徴するとすれば、収受者から追徴する以外にありません。

 たとえ同額を贈賄者が返還を受けていたとしても、それは、当人間の問題にすぎないから、公平感に問題は残っても、国との関係では、この結論はやむを得ないところであるとされます。

 同じことは、賄賂が他と混同されたり、形を変えて、同一性を保持しなくなった後に贈賄者に返還された場合にもいい得えます。

 判例は古くから、

「自己の所持する金銭を混同して判別不能」の場合には、「収賄金その物は没収するわざるに至りたるもの」(大審院判決 明示45年5月6日)

としており、その当然の結論として、

「他の金銭と混同して判明すること能わざるに至りたる時期において該金銭を所持するものより追徴すべきもの」(大審院判決 昭和19年9月29日)

とされ、この考えは、最高裁においても、

「金銭の性質上特定していることが明らかでない限り没収することができない場合に該当するものとしてその価額を追徴すべきもの」(最高裁判決 昭和32年12月20日

とされ、維持されています。

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