刑法(贈収賄罪)

贈賄罪(4)~「贈賄罪の故意」を説明

 前回の記事の続きです。

贈賄罪の故意

 贈賄罪(刑法198条)は故意犯です。

 なので、贈賄罪の成立が認められるためには、贈賄罪の行為を実行する故意が必要になります(故意の詳しい説明は前の記事参照)。

 贈賄罪の故意は、

  • 贈賄の相手方である公務員の職務に関して、賄賂を供与し、申込み、約束をするものであることの認識

を必要とします。

 以下で、贈賄罪の故意を

  1. 相手方である公務員の職務に関するものであることの認識
  2. 賄賂であることの認識
  3. 贈賄者に相手に賄賂を領得させようとする意思

に分けて詳しく説明します。

① 相手方である公務員の職務に関するものであることの認識

 贈賄罪は、刑法198条において、

  • 第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金に処する

と規定します。

 本条の法文上は、職務に関する旨の文言が直接規定されていませんが、刑法197条から197条の4までの収賄罪の成立に、職務に関することが必要条件となっている以上、収賄罪の必要的共犯の関係にある贈賄罪についても、

  • 贈賄罪の相手方である公務員の職務に関するものであることの認識

が必要となります。

② 賄賂であることの認識

 賄賂であることの認識が贈賄罪の成立に必要です。

 公務員から賄賂を要求されても、それを賄賂と考えずにその利益を相手に与えた場合、公務員に賄賂の収受罪(単純収賄罪の賄賂収受罪)は成立せず、賄賂の要求罪(単純収賄罪の賄賂要求罪)のみが成立し、賄賂者には、何の犯罪も成立しないことになります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正11年10月9日)

 裁判所は、

  • 賄賂要求罪の成立には、公務員力その職務に関し、相手方に対し認識し得べき状態において賄賂の交付を求むる意思を表示するをもって足り、相手方が実際上その意思表示を認識したると否とはこれを問わざるが故に、相手方において該意思表示の趣旨を誤認しために贈賄の意思なくして要求せられたる金品を供与することあるもこれがために賄賂要求罪の成否に消長なく

と判示し、贈賄側が賄賂の要求を誤解して、賄賂の意思がなく相手に金品を渡した場合には贈賄罪は成立せず、収賄側に単純収賄罪の賄賂要求罪が成立するとしました。

③ 贈賄者に相手に賄賂を領得させようとする意思

 単純収賄罪などの収受罪の成立には、収受者に賄賂に対する領得の意思が必要ですが、贈賄罪の成立にも、贈賄者に相手に賄賂を領得させようとする意思が必要です。

 もっとも、賄賂であることの認識があり、それを相手に供与する行為についての故意があれば、その行為自体の中に相手の領得を認容する内容があり、その行為の故意の内容として当然収受者に賄賂に対する領得の意思が含まれることになります。

 賄賂を領得させる意思なしに賄賂を供与することは背理となります。

 ただし、贈賄罪の賄賂の申込み・約束の場合は、その申込み・約束を履行する意思なしに公務員を欺いて申込みや約束をする場合があり得ます。

 この場合には、賄賂を相手に領得させる意思はありませんが、申込み・約束についての認識がある以上、贈賄罪の申込罪、贈賄罪の約束罪は成立すると解すべきとされます。

 これは、現実に賄賂の授受のあるなしにかかわらず、賄賂の申込み・約束をするという外形的行為に、公務の公正さとそれに対する国民の信頼を裏切るものがあるためです。

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