刑法(贈収賄罪)

贈賄罪(5)~「贈賄罪の罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

贈賄罪の罪数の考え方

1⃣ 同一人に対して、賄賂を申し込み、約束し、そして供与した場合には、包括して一個の贈賄罪が成立します。

 この点に関する以下の裁判例があります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和29年7月6日)

 裁判所は、

  • 公務員の職務に関し、賄賂を申込み、またはこれを供与する行為が日時を異にして数回にわたり、行われた場合は、各行為が賄賂申込罪または賄賂供与罪としての可罰性を有するのであるが、それらの各行為はひとつの贈賄目的を達するまでの進展過程において行われたものであるから、これを包括的に観察し、一個の賄賂供与罪をもって処断すべきものと解すべきである

と判示しました。

2⃣ 予備、未遂、既遂がいずれも処罰される場合に、既遂に至れば予備、未遂は、既遂罪に吸収され、既遂罪一罪が成立するにすぎませんが(最高裁判決 昭和24年12月21日)、予備、未遂の場合は、構成要件の修正形式であり、元来、独立の存在の意義が既遂罪の存在にかかっているにすぎないのに対し、申込み、約束、供与は、それぞれ別個の構成要件であり、時間的に順次性があるにせよ独立した存在であるので、供与に吸収されることなく、包括して一罪が成立すると解すべきとされます。

3⃣ 同時に二人以上の者に贈賄した場合には一個の行為で数個の罪名に触れるとして、贈賄罪は観念的競合刑法54条)になります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正5年6月21日)

 裁判所は、

  • 被告が同時に二人又は二人以上の者に贈賄したるときは、いわゆる1個の行為にして数個の罪名に触れるものなれば刑法第54条を適用処断すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正6年4月25日)

 裁判所は、

  • 1個の行為をもって数人の公務員に贈賄したるときは、各公務員との関係上、その数に応ずる賄賂罪に触れる1個の行為にしてこれを包括的に観察して単独なる1個の賄賂罪なりというを得ず(※言わざるを得ない)

と判示しました。

4⃣ 複数の公務員に各別に贈賄する意思で、複数の賄賂を同時に同場所でその中の一人にその旨を告げて交付した場合、その者が他の者にその賄賂を更に交付している限り、贈賄者は、複数の贈賄罪の併合罪を犯したものとして処罰されます。

 一括して賄賂の交付を受けた公務員は、自分との関係では、その場で収賄罪が成立し、したがって、その者との関係では贈賄罪が成立しますが、他の公務員は、その者から賄賂を交付された時点で収賄罪が成立することになり、贈賄罪もその時点で成立するので、併合罪となるものです。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和25年11月10日)

 裁判所は、

  • 被告人が2500円と1500円の二口の金包を、いずれの金包を何人に贈与するかを指示せず、同時に同場所で判示Aを通じBに交付したとしても、右Bに対する金品の交付行為をもってしては未だ同人に対する贈賄行為の成立あるに止まり、Cに対してはさらに情を知った右Bが判示の金品をCに交付したときはじめてその実行行為があつたものというべきである
  • 然らば被告人のBに対する贈賄行為と、Cに対する贈賄行為とは別個の贈賄行為であって、原判決がこれを併合罪の関係にあるものとして処断したのは相当である

と判示しました。

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