刑法(凶器準備集合・結集罪)

凶器準備集合・結集罪(13) ~ 凶器準備集合罪⑫「本罪の成立時期と終了時期」を説明

 前回の記事の続きです。

 凶器準備集合罪は、刑法208条の2第1項で、

2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 この記事では、「凶器準備集合罪の成立時期と終了時期」について説明します。

① 凶器準備集合罪の成立時期

 凶器準備集合罪は、二人以上の者が共同加害の意思を持って「集合」したことにより、そのうち凶器を準備し、又は準備あることを知って集合した者に成立します。

1⃣ 集合体が、

  • 途中で共同加害目的を有するに至った場合
  • 共同加害目的を有する集団に加わった者が途中でこの目的を認識し認容するに至った場合

は、「その時点」で凶器準備集合罪が成立します。

2⃣ 共同加害目的で集合し、その後凶器が準備された場合は、「凶器準備の時点」で凶器準備集合罪が成立します。

 具体的に「凶器準備の時点」を認定するのは、外形上何らかの積極的な動きがあった場合であるとされます。

 実際の認定例として、以下の事例があります。

  • 無許可デモ中の過激派集団がプラカートで機動隊員に殴りかかったとき(東京地裁判決 昭和46年3月19日)
  • 警備中の警察官に向けて旗竿を構え直したとき(東京地裁判決 昭和46年11月8日)
  • 相手方集団に対して投石等を開始したとき(札幌高裁判決 昭和47年2月10日)

② 終了時期

 二人以上の者が凶器を準備し、共同加害の目的を持って集合したことにより、凶器準備集合罪は既遂に達します(既遂の説明は前の記事参照)。

 凶器準備集合罪は継続犯であり、集合状態が継続している間は、凶器準備集合罪が存続します(継続犯の説明は前の記事参照)。

凶器準備集合罪の終了時期について、凶器準備集合罪の保護法益である

  • 個人法益の性格
  • 公共的性格の性格

を重視する場合とで、以下のように考え方が異なります(凶器準備集合罪の保護法益の説明は前の記事参照)。

⑴ 個人法益の性格を重視する場合の凶器準備集合の終了時期の考え方

 凶器準備集合罪の持つ個人法益に関する予備罪的性格を重視すれば、凶器準備集合罪は集合状態が発展し、

加害行為の実行段階に至ったとき

は、集合状態が依然継続していてそれ自体社会不安を作り出す状況があっても

凶器準備集合罪は終了

し、その継続はなくなります。

 したがって、集合体が加害行為を開始した後に共同加害の意思を持って新たに集合体に加わっても凶器準備集合罪は成立しないと解することとなります。

 なお、この場合でも、多数のグループから成る過激派集団が集合したような場合に、その先頭集団が加害の実行行為に入っても後方のグループについて凶器準備集合罪を適用できる場合があると考えられています。

⑵ 公共的性格を重視する場合の凶器準備集合の終了時期の考え方

 凶器準備集合罪の持つ公共的性格を重視する場合、集合自体はその性質上解散するまで人の集まりとして継続するので、目的の内容となっている共同加害行為の実行段階に至っても準備のための集合状態は継続しており、凶器準備集合が依然成立すると解すべきとされます。

⑶ 最高裁の考え方

 この問題について、最高裁決定(昭和45年12月3日)は、

「凶器準備集合罪は、個人の生命身体または財産ばかりでなく、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものと解すべきであるから、右『集合』の状態が継続する限り、凶器準備集合罪は継続して成立しているものと解するのが相当である」

との判断を示しました。

 これは、二人以上の者が共同加害の目的を持って凶器を準備して集合した場合に、集合者の一部又は全部が集合の目的である加害行為を開始しても、全体として「集合」の状態が継続していると見られる限り、凶器準備集合罪は継続して成立していると解したものです。

 なお、この裁判の一審判決は、加害行為を開始すれば、凶器準備集合罪は終了するとの説によっていました。

 この裁判の事件は、対立する過激派学生集団が公園に集合して乱闘となったが、これに加わった被告人らが、乱闘の際、凶器である角棒を所持していたことは認められるものの、乱闘開始前に所持していたかどうか明らかでない事案です。

 乱闘開始によって凶器準備集合罪が終了するとすれば、被告人らに凶器準備集合の実行行為がないこととなります。

 しかし、乱闘の後も、両集団は、角材等凶器をもって同所に集ったまま、にらみ合いの状態が続いていたのであり、このような集合状態が継続しているという現実があるのにもかかわらず、いったん加害行為が開始された後は、そのような凶器準備集合状態が同罪を構成しないというのは、凶器準備集合の趣旨に反するし、この状態を新たな集合状態と評価して、加害行為開始前の凶器準備集合罪とは別個の同罪が成立すると解するのも集合者の集合状態の継続性を無視するものといえます。

 また、実際に、集団の中でどのような行為があれば、加害行為が開始され、凶器準備集合罪が終了するのかという合理的な基準が得られるかには疑問があります。

 例えば、集合者の中の―人でも何らかの犯罪構成要件に該当する行為に及べば終了するのか、又は集合者の全部若しくは大部分が犯罪構成要件に該当する行為に及べば終了するのかなど、基準を合理的に設けることは難しいといえます。

 しかも、この限界的な時点を確定する立証は極めて困難であり、この限界的時点と被告人の「集合」の前後関係を明らかにし得ない限り、凶器準備集合罪の成立が認められなくなるというのは、同罪の趣旨にも著しく反します。

 このように集合状態が継続している中に加害行為があったからといって、その加害行為によって、凶器準備集合罪が必ずしも直ちに終了するものではありません。

 とはいうものの、特定の加害行為を予定して凶器を準備して集合し、予定された加害行為に及んだ場合には、加害行為着手後になお「集合状態」の継続を当然に認めるものではありません。

 特定の1個の加害行為のために集合した集合体が、目的とした加害行為を開始した場合には、もはや「加害行為を行おうとする集合体」とはいえないのが通常であると考えられます。

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