刑法(凶器準備集合・結集罪)

凶器準備集合・結集罪(6) ~ 凶器準備集合罪⑤「迎撃目的でも凶器準備集合罪の成立が認められる」を説明

 前回の記事の続きです。

迎撃目的でも凶器準備集合罪の成立が認められる

 凶器準備集合罪は、刑法208条の2第1項で、

2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 この記事では、条文中にある「共同して害を加える」に関し、「迎撃目的(攻めて来る相手を迎え撃つ目的)でも凶器準備集合罪の成立が認められる」ことについて説明します。

迎撃形態の凶器準備集合罪

 抗争時に相手方の襲撃があればこれを迎え撃つ、いわゆる「迎撃形態の凶器準備集合罪」は、凶器準備集合罪に当たることは当然とされ、判例も一貫してこれを認めています。

 この点、主要判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和37年3月27日)

 暴力団の抗争事案に関する事案です。

 裁判官は、

  • 進んで出撃しようとしたのではなくても、相手が襲撃して来た際にはこれを迎撃し、相手を共同して殺傷する目的をもって、凶器を準備し身内の者を集合させたときは、刑法208条の2 第2項の罪が成立する

と判示し、2項の凶器準備集結罪が成立するとしました。

最高裁決定(昭和38年7月12日)

  相手が襲撃して来た際にはこれを迎撃し、相手を共同して殺傷する目的をもって凶器を準備して身内の者とともに集合した場合につき、正当防衛刑法36条)は成立しないとし、凶器準備集合罪の成立を認めた事例です。

 裁判所は、

  • 原判決が「相手が襲撃して来た際にはこれを迎撃し、相手を共同して殺傷する目的をもって凶器を準備して身内の者とともに集合した」被告人の本件所為を兇器準備集合罪に当たるとしたのは正当である
  • 被告人の所為が積極的にいわゆる殴り込みをかけようとしたのではなく、相手の襲撃を防ぐためであったとしても、これを迎撃して相手を殺傷する目的があった以上、正当防衛の観念を容れる余地はない

と判示しました。

最高裁決定(昭和52年7月21日)

 裁判所は、

  • 刑法36条における侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害が予期されただけで失われるものではないが、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは失われることになる

と判示し、相手の侵害の機会を利用して迎撃して相手に積極的に加害行為をする意思がある以上、正当防衛の要件の侵害の急迫性は失われ、凶器準備集合罪が成立するとしました。

襲撃の蓋然性の有無・大小は、迎撃形態の凶器準備集合罪の成否に影響を及ぼさない

 上記のような迎撃形態の凶器準備集合罪を認める場合、相手方の襲撃の蓋然性の有無・大小が本罪の成立に影響を及ぼすかが問題になります。

 個人の生命・身体及び財産を保護する観点からは、相手方の襲撃の具体的蓋然性が低い場合、単にこれを迎え撃つのみの意思で凶器を準備して集合しても、人を殺傷する等の加害行為の実現の危険はなく、したがって凶器準備集合罪は成立しないということになります。

 その一方で、凶器を持った集合状態のもたらす社会生活の平穏に対する侵害を問題視する観点からは、相手方の襲撃の蓋然性にさほど影響されないから、襲撃の蓋然性が高度でなくとも、凶器準備集合罪が成立すると解すべきこととなります。

 この問題について、判例は、襲撃の蓋然性の有無・大小は、迎撃形態の凶器準備集合罪の成否に影響を及ぼさないという立場をとっています。

最高裁判決(昭和58年6月23日)

 裁判所は、

  • 凶器準備集合罪はいわゆる抽象的危険犯であって、いわゆる迎撃形態の凶器準備集合罪が成立するためには、必ずしも相手方からの襲撃の蓋然性ないし切迫性が客観的状況として存在することは必要でなく、凶器準備集合の状況が社会生活の平穏を害し得る態様のものであれば足りるというべきである

と判示しました。

最高裁判決(昭和58年11月22日)

 裁判所は、

  • いわゆる迎撃形態の兇器準備集合罪において共同加害目的があるというためには、行為者が、相手方からの襲撃の蓋然性ないし切迫性を認識している必要はなく、相手方からの襲撃のありうることを予想し、襲撃があった際にはこれを迎撃して相手方の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える意思を有していれば足りる

と判示しました。

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