前回の記事の続きです。
凶器準備集合罪は、刑法208条の2第1項で、
2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
この記事では、条文中にある「凶器」に関し、
- 凶器の意義
- 凶器であるか否かの判断基準
- 凶器性を帯びるに至ったと認められる判断時期
について説明します。
① 凶器の意義
凶器は、
- 人の殺傷を本来の用途として製造された器物(性質上の凶器)
- 本来の用途は人の殺傷ではないが、用法によっては人の殺傷に用いることができる器物(用法上の凶器)
の2つに区分されます。
「用法上の凶器」に当たるかどうかは、行為者の意図、目的やこれを準備して集合する状況から、社会通念上、人に危険感を与えるかどうかで判断されます。
殺傷のために使い得る器具であっても、社会通念上、人に直ちに危険の感を抱かせるに至らないもの、例えば、ステッキ、縄、手拭いのようなものは凶器とはいえません。
判例・裁判例
凶器の意義について言及した判例として以下のものがあります。
大審院判決(明治39年4月12日)
この判例は、「用法上の凶器」概念を認めた主要判例です。
裁判所は、
- 人…を殺傷すべき特性を有する一切の器具を包含する…あるいは器具が…凶器たるや否やは、器具そのものの構造が人を…殺傷するに適するや否やによりて定まるべきものにして、その器具が特に人を…殺傷するの用に供せらるるものなると、その他の用に供せらるるものなるとは、これを問うことを要せず
と判示しました。
大審院判決(大正14年5月26日)
この判例は、「用法上の凶器」を絞り込むものとして、旧衆議院議員選挙法93条1項につき、
- 選挙に関し銃砲、槍戟、刀剣、竹槍、棍棒その他人を殺傷するに足るべき物件を携帯したる者は、2年以下の懲役又は300円以下の罰金に処す」にある「『その他人を殺傷するに足るべき物件』とは、その前段に例示したる銃砲、槍戟、刀剣、竹槍、棍棒等と同視すべき程度に在る用法上の凶器にして、社会の通念に照らし、人の視聴上、直ちに危険の感を抱かしむるに足るものたることを要す
- 太さ略普通の鉛筆大にして長さ約2尺2寸5分に過ぎさる鉄製の棒の上端に、鉄製の輪数個を施しありて、祭礼の際、児童が玩具として使用する錫杖」(金引棒)はこれに当たらない
と判示しました。
この「社会通念に照し、人の視聴上、直ちに危険感を抱かせる」との用法上の凶器の判断基準が、そのまま現在の凶器準備集合罪における凶器にあてはまるものであると考えられました。
そして、刑法208条の2の条文中の「凶器」について、最高裁判決(昭和45年12月3日)は、
- 長さ1メートル前後の角棒は、その本来の性質上、人を殺傷するために作られたものではないが、用法によっては人の生命、身体又は財産を害を加えるに足りる器物であり、かつ、二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に害を加える目的をもってこれを準備して集合するにおいては、社会通念上、人をして危険感をいだかせるに足りるものであるから、刑法208条の2にいう「凶器」に該当するものと解すべきである
として、上記大審院判決(大正14年5月26日)を引き継ぐ判断を示しました。
② 凶器であるか否かの判断基準
凶器であるか否かの判断基準は、
- 当該器具又は用具自体の形状、性質、構造等の客観的要素に加え、
- これを準備して集合した状況(集団の加害目的の意欲の程度、人数、暴力的性格の有無・程度、携帯の態様など)から判断して、生命・身体・財産に危害が加えられるのではないかという不安を人に抱かせるような危険物かどうか
を基準として判断されます。
③ 凶器性を帯びるに至ったと認められる判断時期
凶器性を帯びるに至ったと認められる判断時期は、
集合時である
との見解が有力です。
しかし、「集合」と「準備」の前後関係は、一定ではありません。
各自が持ち寄った物件が、多数人が集合したことで、「社会通念上、人に直ちに危険の感を抱かせるに至る」場合には、集合時が基準となるといえます。
しかし、集合した後に、物を準備する場合には、
準備した時点
でその物の凶器性を判断することになると考えられます。
例えば、喧嘩のために集まった2名以上の者が、隣の資材置き場に鉄パイプが積んであるのに気づき、各自これを手にした場合は、「集合時期」と「凶器性を帯びるに至った時期」が前後する状況が起こります。