刑法(未成年者略取・誘拐罪)

未成年者略取・誘拐罪(9) ~「略取・誘拐罪と「暴行・脅迫罪」「逮捕罪・監禁罪」「遺棄罪」との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法224条)の説明です。

略取罪における「暴行・脅迫」と、誘拐罪における「欺罔・誘惑」との両方の手段を合わせて用いた場合には略取・誘拐罪の一罪となる

 略取罪のける「暴行・脅迫」と、誘拐罪における「欺罔・誘惑」との両方の手段を合わせて用いた場合には略取・誘拐罪の一罪となります。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(昭和10年5月1日)

 父と娘に対し、娘のをつかんで身体を引っ張ったり、あるいは警察に父と娘を詐欺の共犯として訴えるというなどの暴行脅迫を加えるととも、周旋先が淫売を常業とする芸妓置屋業であるのに普通のカフェのように詐言して欺罔誘惑し、娘を淫売婦としてこの置屋に住み込ませたという事案です。

 裁判所は、

  • 拐取罪において、暴行脅迫の手段と欺罔誘惑の手段とが併用せらるる場合においては、これを合一して一罪として観察せざるべからず

と判示しました。

略取の手段として行われた暴行・脅迫と暴行罪・脅迫罪の関係

 略取の手段として行われた暴行・脅迫は、略取罪に吸収され、暴行罪・脅迫罪は成立しません。

略取の手段として行われた逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係

 略取の手段として逮捕・監禁が行われた場合における「略取罪」と「逮捕罪・監禁罪」との関係については、吸収説、観念的競合説、牽連犯説、併合罪説に分かれています。

 学説の見解として、

  • 逮捕によって拐取が行なわれたような場合であれ、拐取の後に監禁が行なわれたような場合であれ、社会生活上の観念に従って、「継続」した一連の犯行と評価しうる場合は、観念的競合を認めるべきであり、場所的・時間的懸隔、犯行態様の変化などが著しい場合(たとえば、「拐取」後の「監禁」を、数日後、さらに脱出困難な場所に移して「強化」するような場合)には、併合罪ないしは牽連犯を考えるべきである
  • 略取・誘拐が同時に逮捕・監禁となる場合は想像的競合となり、両者が手段・結果の関係に立つときは牽連関係があり得るものと解する

とするものがあります。

 裁判例では、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和53年7月28日)

 身の代金要求罪(刑法225条の2第2項)と監禁罪との関係を併合罪とするとともに、営利略取罪を継続犯だとして、監禁を手段として営利略取が行われた場合、監禁罪と営利略取罪が成立し、両罪は観念的競合の関係に立つとしました。

略取・誘拐に引き続く逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係

 略取・誘拐に引き続く逮捕・監禁と逮捕罪・監禁罪の関係についても、吸収説、観念的競合説、牽連犯説、併合罪説に分かれています。

 学説では、

  • 略取・誘拐罪が継統犯の性質を有する場合には、略取・誘拐罪と監禁罪との観念的競合認めるべきである
  • 略取・誘拐罪が状態犯の性質を有する場合には、両罪の牽連犯を認めるべきである

とする見解があります。

 判例では、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和58年9月27日)

 裁判所は、

  • みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪(刑法225条の2第1項)とみのしろ金要求罪(刑法225条の2第2項)とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にあると解するのが相当である

と判示し、身の代金略取・誘拐の後に監禁が行われた場合、身の代金略取・誘拐罪と監禁罪とが併合罪の関係にあることを明言しました。

略取・誘拐罪と遣棄罪との関係

 略取・誘拐罪と遺棄罪刑法217条)との関係については、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。

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